第86話 影の審判
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王都の空を覆う巨大な裂け目から顕現した"影の王"。
漆黒の鎧を纏った巨人のようなその存在は、ただ立っているだけで圧倒的な威圧感を放っていた。
「……これが"影の王"……」
リーナが小さく息を呑む。
それは単なる強敵ではない。まるで"この世界の理そのもの"が形を成したかのような異質な存在だった。
影の王はゆっくりと腕を掲げると、漆黒の霧を纏った巨大な剣を生み出した。
「"影"は"影"のままあるべき……
光を拒み、静寂の闇に還るのだ……」
低く響くその声は、直接脳に響くような異様な感覚を伴っていた。
「来るぞ!!」
蓮が叫ぶと同時に、影の王が剣を振り下ろした。
ズゥンッ!!
空間そのものが裂けるような衝撃とともに、漆黒の斬撃が放たれる。
「防ぐ!!」
イリスとリーナが同時に防御魔法を展開する。
「《聖なる盾》!」
「《光の障壁》!」
二つの魔法陣が輝き、光の盾が形成された。
ドゴォォォォン!!
だが、斬撃が光の障壁に触れた瞬間、それを容易く打ち砕いた。
「なっ――!」
イリスとリーナが吹き飛ばされる。
「チッ……!」
蓮は咄嗟にアイテムボックスから魔鋼の盾を取り出し、前方に掲げた。
ズガァァン!!
直撃こそ避けたものの、膨大な衝撃で蓮の体が地面を滑る。
「くっ……何て力だ……!」
影の王は再びゆっくりと剣を構え、無言のまま次の攻撃の準備を始めた。
「……無理に真正面から受けるな! 分散して戦うぞ!」
蓮の指示に、シャムとリーナがすぐに動く。
「了解!」
「援護する!」
シャムが側面に回り込み、影の王の膝を狙って剣を突き立てた。
ズバァッ!!
確かに剣は影の王の膝に届いた――だが。
ズシュウウウ……
影の王の身体は液状の闇のように変化し、剣が深く刺さることはなかった。
「なんだと!?」
「"物理攻撃が効かない"……!? いや、違う!」
リーナが即座に分析し、声を上げる。
「"影の王"は実体を持たない……でも、魔力によって一時的に物質化する瞬間がある!」
「じゃあ、そいつを狙えば――」
「ええ! でも、タイミングを見極めないと無駄撃ちになるわ!」
蓮はリーナの言葉を聞くと、影の王の動きを慎重に観察した。
「物質化する瞬間……どこだ……」
影の王が再び剣を振り上げる。
蓮はその動きに集中する。
「……今だ!!」
剣が完全に物質化した瞬間を見極め、蓮はアイテムボックスから"魔素封じの鎖"を取り出した。
「これならどうだ!!」
鎖を影の王の腕に向かって投げつける。
ガシャァァン!!
鎖が影の王の腕に絡みついた瞬間、影の王の動きが鈍った。
「効いた……!?」
「いや、まだだ!」
シャムが一気に駆け寄り、影の王の腕に向かって剣を振るった。
ギィィン!!
今度は確かな手応えがあった。
「通った!!」
だが――
影の王が低く唸ると、影の鎖を自らの魔力で弾き飛ばし、シャムを吹き飛ばした。
「ぐっ……!!」
シャムが地面を転がる。
「やっぱり長時間は無理か……!」
蓮は歯を食いしばった。
影の王はゆっくりと顔を上げると、その目を蓮へと向けた。
「……影を裁くのは、"闇"ではない……"光"の責務……」
次の瞬間――
影の王の後方から、突如として光の矢が降り注いだ。
シュンッ! シュンッ!
「な……!?」
影の王の動きが僅かに鈍る。
「今よ!!」
リーナが叫ぶ。
蓮はその隙を見逃さず、一気に距離を詰めた。
「――"終わらせる"!!」
剣に魔力を込め、一撃を叩き込む。
ズバァァァン!!
影の王の胸部を斬り裂いた。
影の王は低く唸り、漆黒の霧を撒き散らす。
「貴様らは……"影"の外に立つ者か……」
ゆっくりと、その身体が崩れ始める。
「……"影"の審判は……まだ……終わらぬ……」
言葉を残し、影の王の姿は霧散していった。
王都に静寂が戻る。
蓮は荒い息を吐きながら、剣を下ろした。
「……終わった……のか?」
「……まだ、分からない……」
リーナが慎重に周囲を見渡す。
だが、影の王が発していた魔力の波動は確かに消え去っていた。
「とりあえず……勝ったってことでいいんじゃないか?」
シャムが苦笑しながら立ち上がる。
「……ああ」
蓮はゆっくりと頷いた。
長く続いた戦いは、ついに決着を迎えたのだった。
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