第84話 影の王の騎士
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黒騎士の剣が振り下ろされた瞬間、蓮は本能的に身を引き、刹那の判断で剣を横に構えた。
カンッ!!
空間が震えるような衝撃とともに、蓮の足元の石畳が砕け散る。
斬撃の衝撃波が周囲を巻き込み、瓦礫が宙を舞った。
「――っ!!」
蓮は足に力を込めて衝撃を耐える。
だが、まるで重力そのものが押し寄せるかのような一撃だった。
「……なんて力だ」
黒騎士の一撃は、ただの剣技ではない。
それはまるで空間を切り裂くかのような異常な力を帯びていた。
「蓮!」
イリスが魔法陣を展開し、彼の背後に防御魔法を張る。
だが――
「無駄だ」
黒騎士が無造作に左手を振ると、その動作だけでイリスの魔法陣が砕け散る。
防御魔法が霧散し、衝撃波がイリスを襲う。
「――っ!!」
イリスが吹き飛ばされる寸前、シャムが素早く駆け寄り、彼女の腕を引いた。
「大丈夫か!」
「え、ええ……でも、あの騎士……」
イリスの声には驚愕と恐怖が混じっていた。
彼女の防御魔法は、並の攻撃ならば完全に防ぐはずだった。
だが、それすらも無意味にされる。
「……"影の王"の眷属、か」
蓮は剣を構え直しながら、改めて目の前の敵を見据える。
黒騎士――その名の通り、全身を漆黒の鎧で覆われた異形の戦士。
しかし、単なる強者とは違う。
「奴の剣……異常な力を持っている」
リーナが冷静に分析する。
彼女の視線は、黒騎士が持つ漆黒の剣に向けられていた。
「あれは……"影の王の力"を宿した武器よ」
「影の王……?」
シャムが眉をひそめる。
「ノワールの主だと思われていた存在……だが、それ以上の力を持つ"何か"よ」
リーナの声には明らかな焦燥があった。
神聖魔法を扱う彼女ですら、相手の魔力の深淵を測りかねている。
「となると……コイツを倒せば、"影の王"の正体が分かるかもしれないってわけか」
蓮が静かに言うと、黒騎士が初めて小さく笑った。
「……倒せるものならな」
次の瞬間――
黒騎士が消えた。
「――!!」
蓮は即座に剣を振るう。
だが、それは空を切るだけだった。
「どこだ!?」
「上よ!」
リーナが叫んだ瞬間、黒騎士は蓮の真上に現れていた。
「遅い」
黒騎士の剣が振り下ろされる。
「くっ……!」
蓮は咄嗟にアイテムボックスから魔鋼の盾を取り出し、頭上に掲げた。
ズガァァァン!!
剣と盾がぶつかり合い、凄まじい衝撃が広がる。
街路の石畳が抉れ、土煙が舞い上がる。
「はっ……! これなら――」
蓮はそのまま盾を押し返し、カウンターの剣撃を繰り出す。
ギィィン!!
黒騎士は一歩引き、蓮の攻撃を受け流した。
その動きは洗練されており、まるで戦場に生きる者の本能そのものだった。
「……中々やるな」
黒騎士が微かに呟く。
だが、その声にはまだ余裕があった。
「ならば、"本気"を見せてやろう」
黒騎士の魔力が急激に増大する。
「……まずい!!」
リーナが即座に聖なる結界を展開する。
だが、黒騎士の剣がそれを容易く斬り裂いた。
「っ!!」
リーナが後退する。
シャムが剣を振るい、黒騎士の側面を狙うが――
シュンッ!!
黒騎士は影の中に溶けるように消えた。
「……!?」
シャムの攻撃は空を切る。
「どこだ!?」
「……背後だ」
黒騎士の声が響いた瞬間、シャムの背中に衝撃が走る。
「ぐっ……!」
吹き飛ばされたシャムが地面を転がる。
蓮がすぐに駆け寄るが、黒騎士は追撃を許さない。
「――貴様らには、"影の王"の裁きを受けてもらう」
黒騎士が剣を振り上げると、周囲の影が蠢いた。
次の瞬間、王都の空に巨大な魔法陣が浮かび上がる。
「これは……?」
リーナが戦慄する。
その魔法陣は、以前ノワールが使っていたものよりもさらに強大なものだった。
「"影の王"がこの地に降臨する……そのための門だ」
黒騎士が淡々と告げる。
「そんなこと……させるものか!!」
蓮は剣を握りしめる。
「ふっ……できるものならな」
黒騎士が剣を構え直す。
その瞳には、ただ冷徹な"使命"だけが宿っていた。
「――ならば、その"使命"を砕くまでだ!」
蓮は剣を振りかざし、全力で黒騎士へと向かっていった。
戦いは、なおも続く――。
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