第83話 黒騎士の脅威
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王都の夜に、静寂が戻る。
闇を司る男――ノワールは倒れ、その影の領域も完全に消滅した。
「……終わったな」
剣を収め、蓮は深く息をついた。
戦いの余韻がまだ身体に残っているが、確かな勝利の感触があった。
「ふぅ……流石に、キツかったな」
シャムが息を吐きながら剣を肩に担ぐ。
リーナも神聖魔法を解き、ふわりとした息を漏らした。
「蓮、大丈夫?」
イリスが駆け寄り、心配そうに彼の顔を覗き込む。
彼女の手にはまだ魔力の余韻が残っている。
「……なんとか、な」
蓮が微笑むと、イリスも安堵したように微笑んだ。
「しかし、ノワールほどの男が……」
シャムが足元に転がるノワールの身体を見下ろす。
彼は既に動かない。
「まるで、闇そのものと戦っているようだった」
「ああ……だが、これで本当に終わったのか?」
蓮は剣を握り直し、周囲を警戒する。
確かにノワールは倒れた。だが、妙な違和感が残っていた。
「ノワールは影の魔術を極めていた……それほどの男が、こんなにもあっさり終わるとは思えない」
「……確かに」
リーナが神聖魔法を展開し、ノワールの遺体を探る。
「……おかしいわ」
「何がだ?」
「彼の身体から……魔力がほとんど感じられない」
リーナの声には、明らかな不安が滲んでいた。
通常、強力な魔術師が倒れた場合、遺体には大量の魔素が残る。
だが、ノワールの身体からは、ほぼ何も感じられなかった。
「まさか……」
蓮が剣を抜こうとした瞬間――
「――遅かったな」
ノワールの口元が微かに動き、呟くように言った。
「なっ……!?」
シャムが即座に剣を振るうが、その刹那――ノワールの身体が黒い霧となって消滅した。
「くそっ……やはり!」
蓮が叫ぶ。
「奴は……影そのものになったのか!?」
「違うわ……これは"囮"よ」
リーナが苦々しく言う。
「ノワールの本体は、まだどこかにいる……これは彼が作った"影の器"よ」
「つまり……倒したと思ったが、騙されたってことか」
シャムが忌々しげに言った。
「まずいな……」
蓮は改めて剣を握る。
このままでは、ノワールはどこかで復活するかもしれない。
だが――その時だった。
「お前たちが"影"を滅ぼしたこと……よく理解した」
王都の空に、禍々しい魔力が満ちる。
まるで世界そのものが震えているような錯覚を覚えるほどの、圧倒的な力。
「……この魔力、尋常じゃないぞ」
シャムが驚愕の声を上げる。
蓮もまた、ただならぬ気配を感じていた。
王都の空に、巨大な魔法陣が浮かび上がる。
「これは……召喚魔法!?」
リーナが目を見開く。
だが、それは通常の召喚魔法とは異なる。
「いや……"転移"だ」
蓮が叫ぶ。
「誰かが……王都に転移してくる!!」
次の瞬間――
ズンッ!!
地響きを伴い、巨大な影が現れた。
それは――黒い鎧に身を包んだ、異形の騎士だった。
身体の周囲には無数の黒い魔力が渦巻いている。
「……こいつは……」
シャムが言葉を失う。
「まさか……"黒騎士"……!」
リーナが呟く。
蓮は即座に身構える。
「……新たな敵か」
黒騎士の瞳が光り、無言のまま剣を抜いた。
カンッ!
次の瞬間、蓮の前に黒い斬撃が飛んでくる。
「くっ!!」
蓮は剣を構え、全力で受け止めた。
衝撃で地面が抉れ、凄まじい風圧が吹き荒れる。
「……強い!!」
蓮は直感した。
この敵は、ノワールとはまた別格の強さを持っている。
「奴の正体は……?」
シャムが黒騎士の姿を睨む。
「分からない……ただ、感じる。この魔力は"人間のもの"じゃない」
リーナが警戒しながら言う。
黒騎士はゆっくりと剣を振り上げると、静かに呟いた。
「……我は"影の王"が遣わした者」
「影の王……?」
「ノワールの主か……?」
「いや……それ以上かもしれない」
リーナの顔が青ざめる。
「まさか、"影の王"が……本当に実在するなんて……」
「どういうことだ?」
蓮が問う。
「"影の王"とは……この世界の裏に存在する"もう一つの支配者"よ」
リーナが震える声で言った。
「伝説では、"光の神"と対をなす存在……"闇の神"の眷属と言われているわ」
「つまり、神の力を持つ者ってことか……」
蓮は剣を握り直す。
「……ならば、俺たちがやるべきことは変わらない」
黒騎士が再び剣を構える。
「"影の王"の意志に従い、貴様らを滅ぼす」
彼が低く呟くと、再び空間が歪んだ。
「……くる!!」
蓮が叫んだ瞬間――
戦いが、再び幕を開けた。
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