第82話 光と闇の決戦
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蓮は剣を構えたまま、ノワールの動きを見据えていた。
闇が渦巻き、王都の路地は完全な闇に包まれている。
――まるで夜そのものが意志を持ったかのように。
「お前の光がどこまで届くか……試してみろ」
ノワールが嘲るように笑い、手を広げる。
その瞬間、彼を中心に黒い霧のようなものが広がった。
「《影界降臨》」
空間が歪む。
視界が黒に塗りつぶされ、まるで月も星も存在しない異空間に引き込まれたような感覚に襲われた。
「くっ……!」
蓮は咄嗟に光を宿した剣を振るった。
しかし、剣が通った軌跡すらも影に呑まれていく。
(これは……完全な闇の領域!?)
彼の周囲には、もはや何も見えなかった。
自分の手のひらすら、黒に溶け込んでしまったかのように感じる。
だが――
「っ!?」
背後に気配を感じ、反射的に剣を振るった。
キィィンッ!
刃と刃が交差する音。
蓮は瞬時に一歩引き、ノワールとの間合いを取る。
「よく反応したな」
ノワールの声は、まるで四方八方から響くかのように聞こえる。
(この闇の中じゃ、気配も音も乱される……目を閉じていたほうがマシかもしれない)
蓮は深く息を吸い込み、冷静に状況を分析する。
「《光輝剣》」
剣に光を宿らせた瞬間、僅かに視界が開けた。
しかし、それも一瞬のこと。
闇が光を吸収し、また元の暗黒世界へと引き戻される。
「無駄だ。お前の光は、この影の中ではただの点に過ぎない」
ノワールの声とともに、無数の黒い刃が飛んできた。
「《閃光斬》!」
蓮は剣を振り抜き、光の刃を放つ。
飛来する影の刃を撃ち落としたが、ノワールの気配は消えたままだった。
(厄介すぎる……!)
蓮が歯を食いしばった瞬間――
「《雷撃槍》!!」
轟音とともに雷光が駆け抜け、闇を切り裂いた。
「っ!」
ノワールが影から飛び出す。
「なるほど……雷の光で影を無理矢理焼き払ったか」
闇の支配が僅かに崩れ、蓮の視界が戻る。
「蓮、大丈夫!?」
イリスの声が響き、彼女が駆け寄ってくる。
その隣にはシャムもいた。
「派手にやってるじゃねえか」
「助かった」
蓮は短く礼を言い、すぐにノワールへと意識を向ける。
「俺一人じゃ厳しかったが……三人ならどうだ?」
蓮が挑発すると、ノワールは静かに笑った。
「そうだな。ならば――俺も本気を出そう」
彼は両手を広げ、影を収束させる。
「《黒王の顕現》」
轟音とともに影が膨れ上がり、ノワールの背後に巨大な漆黒の獣が顕現した。
それは狼のような形をしていたが、瞳の奥に禍々しい光を宿している。
「こいつは俺の"影の化身"だ」
ノワールが指を鳴らすと、影の獣が低く唸った。
「行け」
黒狼が蓮たちへ向かって疾走する。
地面を蹴るたびに影が揺れ、そのたびに空間が歪むように見えた。
「シャム!」
「任せろ!」
シャムが飛び出し、剣を振るった。
「《連撃剣舞》!!」
刃の嵐が黒狼を襲うが――
「……!?」
斬撃が影に吸い込まれ、何の手応えもなかった。
「甘いな」
ノワールが指を弾くと、黒狼が瞬時にシャムの背後へと移動する。
「チッ――」
シャムが身を翻した瞬間、黒狼の牙が襲いかかる。
「《聖盾》!」
リーナの神聖魔法が炸裂し、黒狼を弾く。
「……ククッ、厄介なことをしてくれる」
ノワールが小さく笑う。
「ならば、もっと絶望を見せてやろう」
彼が両手を掲げると、黒狼がさらに巨大化した。
その影が地面に広がり、周囲の空間すら侵食していく。
「――影の王としての、真の力だ」
蓮は息を呑んだ。
このままでは、すべてが影に呑まれる。
だが――
「俺の光が……必ず打ち砕く」
蓮は剣を高く掲げる。
「《聖光爆裂》!!」
眩い閃光が、全てを照らした。
「ぐっ……!」
ノワールが影を操り、闇を維持しようとする。
だが、蓮はさらに力を込めた。
「――俺の仲間は、闇なんかに負けない!!」
光が爆発し、影の領域を完全に吹き飛ばす。
「……バカな」
ノワールが驚愕の表情を浮かべた。
その隙を逃さず、蓮は駆け出した。
「終わりだ、ノワール!!」
剣が閃き――
ノワールの胸元に突き立てられる。
「ぐっ……」
ノワールの影が霧散し、彼の身体が崩れるように倒れ込んだ。
「俺の……負け、か……」
彼は薄く笑い、力尽きた。
蓮は剣を収め、深く息をついた。
「……終わったな」
戦いの余韻が、静かに王都の夜に溶け込んでいく。
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