第80話 闇の死闘
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王都の夜。
それは本来、静けさに包まれるはずの時間だった。
しかし、今夜は違う。
冷たい月光の下、影が揺れ、死の予感が漂っている。
「……来たか」
蓮は、手にした剣を静かに構えた。
彼の周囲には、シャム、イリス、リーナの三人が陣を組むように立っている。
その視線の先には、黒装束に身を包んだ男たち――帝国の暗殺者たちが、静かに佇んでいた。
彼らは一切の音を立てず、まるで影そのもののように気配を消していた。
「影の狩人……やっぱり帝国は、正面から戦うつもりはないってことか」
シャムが低く呟く。
彼らは「帝国の影」とも呼ばれる存在。表立った戦争ではなく、裏から敵国を崩壊させることを目的とする暗殺部隊。
暗闇の中で生き、暗闇の中で死ぬ者たち。
それが"影の狩人"。
そして、その頂点に立つのが、一人の男だった。
「……はじめまして、異世界の転移者よ」
男は、どこか余裕のある声で口を開く。
「俺の名はノワール。お前の命をもらいに来た」
その言葉と同時に、影が動いた。
まるで夜風が吹き抜けるような静寂の中で、無数の刃が光る。
暗殺者たちが、一斉に襲いかかってきたのだ。
「散開!」
蓮が指示を飛ばす。
瞬間、シャムが疾風のごとく前へ飛び出した。
「はっ!」
彼の剣が一閃し、闇に紛れる暗殺者の一人を斬り伏せる。
しかし、すぐさま別の影が飛び込み、シャムの死角から攻撃を仕掛けてきた。
「させるか!」
イリスが素早く魔法を詠唱し、シャムの周囲に防御の結界を展開する。
「《防護障壁》!」
魔法の障壁が、暗殺者の短剣を弾き返した。
「くっ……!」
暗殺者は舌打ちしながら距離を取る。
だが、その隙を逃すシャムではなかった。
「甘い!」
シャムの剣が、暗殺者の胸元を貫いた。
「ぐ……!」
敵が膝をつくと同時に、イリスが後方の敵へ魔法を放つ。
「《雷撃槍》!」
雷の槍が夜空を裂き、敵の一人を貫いた。
「ぐああっ!」
一人、また一人と暗殺者たちが倒れていく。
しかし――
「ふむ、なかなかやるな」
ノワールが静かに呟く。
彼はまだ動いていなかった。
その双眸が、蓮をじっと見据えている。
「だが、俺の"影"を相手に、どこまで持つかな?」
ノワールが指を軽く弾いた。
次の瞬間、蓮たちの足元から、黒い影が湧き上がった。
「影の魔術……!」
蓮は瞬時に察知した。
影の中から、無数の手が伸び、彼らの動きを封じようとする。
「《光輝剣》!」
蓮は剣に光を宿し、影を断ち切る。
「ほう……」
ノワールは面白そうに目を細めた。
「さすがは異世界の転移者か。だが……」
彼は一瞬で蓮との距離を詰めた。
「俺の影を断ち切れるか?」
ノワールの短剣が、蓮の首筋を狙う。
蓮は即座に剣を振るい、防御の構えを取る――
だが。
「!?」
手ごたえが、ない。
ノワールの姿が、消えた。
「……後ろか!」
蓮は瞬時に後方へ跳びのいた。
「正解だ」
ノワールは、蓮の背後から攻撃を仕掛けようとしていた。
「だが――遅い」
ノワールの短剣が、蓮の肩を掠める。
「ぐっ……!」
蓮は反射的に後退し、間合いを取る。
「なかなかの反応速度だな」
ノワールは不敵に微笑んだ。
「だが、俺には"影"がある」
次の瞬間、ノワールの体が影に溶けるように消えた。
「……っ!」
蓮は辺りを見回す。
どこだ?
どこにいる――?
答えは――
「そこだ」
ノワールの声が、蓮の足元から聞こえた。
影の中から現れたノワールの刃が、蓮を狙う。
しかし――
「読めた」
蓮はすでに剣を振るっていた。
「《閃光斬》!」
光を帯びた剣閃が、ノワールの影を裂いた。
「……っ!」
ノワールの体が弾き飛ばされる。
彼は影の中に潜んでいたが、光属性の攻撃には耐えられなかったのだ。
「……なるほど」
ノワールは立ち上がり、蓮を見据える。
「お前の戦い方……やはり普通ではないな」
「そっちこそ、影を自在に操るとはな」
蓮は剣を構え直した。
「だが、お前の影は俺の光で断ち切れる」
「……フッ」
ノワールは小さく笑った。
「面白い。ならば、次は"本気"でいかせてもらおう」
彼の周囲に、さらに濃い影が集まり始める。
闇が、蠢いていた。
「"影の王"の力、見せてやるよ」
蓮もまた、剣を握り直す。
激闘の幕が、まだまだ開かれたばかりだった――
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