第79話 影の暗躍
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帝国王都の深部。陽の光が届かぬ暗き地下通路を、一人の男が歩いていた。
黒装束に身を包み、気配を完全に消している。
「影の暗殺者」
それが彼の名ではなく、存在そのものを指す呼び名だった。
「……カール・バルトの敗北、そして帝国軍の撤退か」
静かに呟きながら、彼――ノワールは皇帝の命を思い返す。
「"影"を動かせ」
その一言で、彼は目標を理解した。
蓮。
帝国にとって障害となる異世界の転移者。
彼をこの世界から消し去る――それが自らに課せられた使命。
「やれやれ……面倒な相手だな」
ノワールは小さく笑った。
彼はやがて、一つの扉の前に立った。
帝国王都の地下に存在する、闇の組織の拠点――"影の狩人"のアジトである。
扉をノックすることなく、ただ指を軽く振ると、魔法が発動し、結界が解除された。
暗闇の中、無数の殺意が蠢いている。
「ノワールか」
奥の席から声がかかった。
そこにいたのは、"影の狩人"の長、グレゴールだった。
白髪の隻眼、無骨な鋼の義手。帝国の暗部を担う男。
「皇帝陛下の命令だ。異世界転移者、蓮を排除する」
ノワールが淡々と告げると、グレゴールは渋い表情を浮かべた。
「厄介な相手だぞ。何せ、帝国軍を打ち破ったんだからな」
「知っている。だからこそ、"影"の出番だろう?」
ノワールは微笑を浮かべた。
「お前の部下たちと共に、蓮を仕留める。問題はないな?」
グレゴールはしばし沈黙したが、やがて頷いた。
「いいだろう。だが、成功率は保証できんぞ」
「構わん。準備を整えろ。今夜、出る」
ノワールの命令により、"影の狩人"の精鋭たちが動き出した。
闇の中での狩りが始まる。
一方その頃――
蓮たちは王都に戻り、次の行動を練っていた。
「帝国の動きが気になるな……」
シャムが腕を組みながら言う。
「そうだな。新たな召喚者を用意した可能性もある」
イリスが頷く。
「それにしても……あまりにも静かすぎる」
リーナが不安げに呟いた。
「帝国がこのまま黙っているとは思えない。だが、今のところ明確な動きは見えない……」
「逆に、それが怖いんだよな」
蓮は目を細めた。
「派手に攻めてこないなら、暗殺か謀略の可能性が高い」
彼の言葉に、皆が緊張を高める。
「俺たちも警戒を強めるべきだな」
そう決意を固めた瞬間――
「――!」
イリスの耳がピクリと動いた。
「どうした?」
蓮が尋ねると、イリスは鋭い視線を向けた。
「……何か、妙な気配を感じる」
「気配?」
「そう。誰かが……こちらを探ってるような感じがする」
皆の表情が引き締まる。
「どこだ?」
「分からない……だが、かなりの手練れだ。普通なら気づけないレベルの……」
イリスの言葉に、蓮は確信した。
「帝国の"影"が動いたか……」
彼は剣を手に取った。
「来るなら、迎え撃つまでだ」
その時――
「――!」
空気が一瞬揺れた。
それは、音もなく忍び寄る死の気配だった。
影の暗殺者が、ついに動き出したのだ。
王都の夜は、静かだった。
だが、静寂の中に潜む殺意は、確実に迫っていた。
ノワールは、"影の狩人"の精鋭たちと共に、蓮のいる建物を囲んでいた。
「……ここにいるな」
ノワールは低く呟いた。
「全員、準備はいいな?」
暗闇の中、無言の頷きが返る。
「では、狩りを始めようか」
瞬間、闇が揺れた。
蓮たちの周囲に、無数の影が現れたのだ。
「来たか……!」
蓮は剣を構えた。
「気をつけろ! こいつらは帝国の暗殺部隊だ!」
シャムが叫ぶ。
「迎え撃つ!」
蓮の号令と共に、戦いが始まった。
闇の中での死闘。
影と影がぶつかり合う、静かなる戦争が、今まさに幕を開けた。
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