第78話 帝国の反撃
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魔人カール・バルトを異空間へと追放し、帝国軍は指導者を失った。遺跡は崩壊寸前だったが、カールの消滅と共に魔法陣の暴走が止まり、辛うじて崩壊を免れた。
戦場には静寂が広がっていた。
蓮が鋭い視線を帝国兵たちに向けると、彼らは皆、疲弊し切った表情で武器を地面に落とした。
「降伏する者はその場に留まり、動くな。」
低く響く蓮の声に、帝国兵たちは何も言わず従った。
「貴様ら、逃げるのか!? 帝国の誇りはどうした!」
怒声を上げたのは、帝国軍の副隊長と思われる男だった。血まみれの鎧をまとい、剣を強く握りしめている。
「お前たち、武器を捨てて帝国に顔向けできるのか!? 俺たちは――」
「なら、戦うか?」
蓮が静かに歩み寄り、男の目の前に立つ。
「ここで戦えばどうなるか、分かっているな?」
「ぐ……っ!」
蓮の目には迷いがなかった。副隊長の男は歯ぎしりしながらも、剣を握る手が震えていた。
「俺は……帝国のために……」
「その帝国が、お前たちを見捨てたとしたら?」
「……何?」
「ここにいたカール・バルトは、お前たちに撤退の指示を出したか?」
副隊長は言葉を失った。
「彼は帝国の未来より、自分の研究に固執していただけだ。そして最後は"鍵"として自らを捧げた。それがお前の忠誠を尽くした相手の末路だ」
「……くっ……」
「選べ。ここで無駄死にするか、それとも生き延びるか」
副隊長は拳を握りしめたが、やがて肩を落とし、剣を地面に突き立てた。
「……降伏する」
蓮は静かに頷き、周囲の兵士たちを見渡す。彼らも次々に武器を捨てた。
「縛る縄は持ってきてないが、逃げるつもりがないならその場で待機しておけ。後で王国軍に引き渡す」
蓮がそう告げると、帝国兵たちは黙って頷いた。
戦場は、蓮たちの勝利で幕を閉じた。
「しかし、ここで帝国軍を退けても、帝国本国が動く可能性は高いな……」
シャムが険しい表情で呟く。
「確実に動くだろう。ここでの敗北が伝われば、帝国は次の策を練るはずだ」
蓮はそう断言した。
「問題は、帝国がどう出るかだな。正面から攻めてくるのか、それとも別の手を使うのか……」
イリスが慎重に推測する。
その時――
「……っ!」
イリスの耳がピクッと動いた。
「どうした?」
「誰かが、魔法通信を使ってる」
イリスの魔法感知能力が働いた。蓮は即座に周囲を見回し、帝国兵の中に魔力の流れを感じる者がいないかを探る。
そして、一人の兵士が不自然な動きをしているのを見つけた。
「……お前か」
蓮が詰め寄ると、その兵士は驚愕し、懐から小型の魔道具を取り出した。
「しまっ――」
瞬間、シャムが鋭く斬りかかり、魔道具を真っ二つにした。
「き、貴様……!」
兵士は後ずさるが、蓮がすでに剣を突きつけていた。
「今、誰と通信していた?」
「……」
兵士は口を閉ざす。
「喋らないつもりか? それなら、"記憶解析"の魔法を使うが?」
「なっ……!」
蓮の脅しによって、兵士は焦りを見せた。
「……帝国本国へ、敗北を伝えた……」
「それだけか?」
「……次の指示を待て、と」
「なるほどな」
蓮は剣を引き、兵士を拘束するようイリスに指示した。
「これで帝国は動くな」
シャムが溜息をつく。
「問題は、どんな手でくるか、だな」
蓮はそう呟きながら、遠くの空を見上げた。
その頃――
帝国王都、王城の奥深く。
皇帝の前に、一人の男が跪いていた。
「……カール・バルトが敗れたか」
玉座の上で、帝国皇帝は冷たい声で呟いた。
「はっ……しかし、カールの"鍵"は成功し、召喚は完了しました」
男は静かに告げる。
「そうか。それで、新たな"召喚者"は?」
「現在、適応を進めています。完全に力を引き出すには時間が必要ですが……」
「よい。時間はいくらでもある」
帝国皇帝は微笑む。
「蓮……だったか。我が帝国を阻む存在として、許すわけにはいかんな」
「陛下、次の作戦はいかがいたしますか?」
「"影"を動かせ」
「……かしこまりました」
男は恭しく頭を下げ、皇帝の間から姿を消した。
――帝国の反撃が、静かに始まろうとしていた。
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