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第77話  策謀の果て

いつもお読みいただきまして、ありがとうございます。

 魔導大砲の轟音が遺跡の空間を揺るがし、砲撃の余波が巻き起こした塵と煙が戦場を覆った。


 《魔導砲・極光破ルミナス・ブレイカー》によって、カール・バルトが召喚した《奈落の従者アビス・サーヴァント》は消滅し、その場には深い焦げ跡だけが残されている。


 その光景を前に、帝国兵たちは一様に立ち尽くしていた。


「バ、バカな……そんな……!」


 カール・バルトは呆然としながら後ずさる。彼の表情には明確な動揺が滲んでいた。


 遺跡内に張り巡らされた罠や魔術、さらには自身が誇る召喚術の奥義までもが、蓮の機転とアイテムボックスの力によって無力化された。


「終わりだ、カール・バルト」


 蓮は剣を構えながら、一歩ずつカールへと歩み寄る。


 それに続くように、シャム、イリス、エルシアも臨戦態勢を崩さない。


 しかし――


「……終わり? ふふ……はははっ……!」


 カールは突然、笑い声を上げた。


 それは嘲笑ではなく、狂気に満ちた破滅の笑みだった。


「何がおかしい」


 蓮は警戒しながら問いかける。


「何がおかしいだと? すべてだよ!」


 カールは狂気じみた目で蓮を睨みつけた。


「お前がどれほど力を持とうと、この帝国の大義は潰えることはない……! この遺跡の奥には、"真なる召喚"のための最後の鍵が眠っているのだ!」


「……何?」


 蓮が思わず眉をひそめる。


 遺跡の奥――?


「すべては計画のうちだ……!」


 カールはローブの内側から、血のように赤い魔石を取り出した。


 そして、その魔石に向かって何かを呟くと――


 ゴゴゴゴゴ……!


 遺跡全体が大きく揺れた。


「これは……!」


 イリスが動揺の声を上げる。


 壁や床に埋め込まれた魔法陣が、一斉に赤い光を放ち始めたのだ。


 そして、その中心に立つカール・バルトの身体が、じわじわと赤黒い靄に包まれていく。


「貴様、何をする気だ!」


 シャムが剣を構えながら詰め寄ろうとした、その瞬間――


「……"自ら"が鍵となり、帝国に勝利をもたらすのだ……!」


 カール・バルトの身体が、魔石の光に呑まれ――そして、異形へと変貌していった。



 肉体が膨れ上がり、骨が軋む音が響く。


 カール・バルトの腕は異様に長く伸び、背には漆黒の翼が生え、瞳は紅蓮の炎のように輝いた。


 その姿はもはや人ではない。


 ――魔人。


「はは……これこそが、"真なる召喚"の力よ……!」


 魔人カールは咆哮と共に、大量の魔力を解放した。


「みんな、下がれ!」


 蓮が叫ぶと同時に、魔力の奔流が四方へと放たれる。


 シャムとイリス、エルシアが素早く回避し、蓮も後方へと飛び退った。


 だが、遺跡の壁が崩れ、天井から巨大な瓦礫が降り注ぐ。


「くっ……!」


 蓮は即座にアイテムボックスを開き、盾を取り出して防御の態勢を取る。


 シャムとイリスもそれぞれ武器を構え、魔人カールとの決戦に備えた。


「蓮……あれ、やばくねぇか?」


 シャムが低く唸る。


「……ああ。だが、ここで引くわけにはいかない」


 蓮は冷静に周囲を見渡した。


 魔人化したカールの魔力は、今までとは桁違いに膨れ上がっている。


 正面から戦えば、相当の苦戦を強いられるだろう。


 だが――


(いや……この状況、むしろ"利用できる")


 蓮の脳裏に、ある策が閃いた。



「貴様らは、ここで滅びるのだ……!」


 魔人カールが両腕を振るうと、周囲の魔法陣がさらに活性化し、遺跡の崩壊が加速していく。


 天井の亀裂が広がり、床が砕け、空間全体が不安定になり始めた。


(なるほどな……これはチャンスだ)


 蓮は素早くアイテムボックスを開き、あるアイテムを取り出した。


『次元転移の魔石』


 それは、空間の亀裂を利用して特定の地点へ強制転移させる魔道具だった。


「みんな、準備はいいか?」


「……お前、また何か思いついたな?」


 シャムが薄く笑う。


「ああ。"こいつごと"、別の場所へ飛ばす」


 蓮はそう言って、『次元転移の魔石』を魔人カールへと向けた。


 カールが気づいた時には、すでに遅かった。


「な、何を――」


 魔石が輝き、空間が歪む。


「さようならだ、カール・バルト」


 蓮が呟いた瞬間、魔人カールの身体が空間の亀裂に呑まれ――


 ズォォォォン!!


 轟音と共に、魔人カールは異空間へと消え去った。



 カール・バルトの消滅と共に、遺跡の崩壊も止まった。


 帝国兵たちは指導者を失い、完全に戦意を喪失した。


「降伏する者は武器を捨てろ。抵抗するなら容赦しない」


 蓮の声に、帝国兵たちは次々と武器を投げ捨てる。


 戦いは、終わった。


 しかし――


(これで完全に終わったわけじゃない)


 カール・バルトは倒したが、帝国の陰謀そのものはまだ続いている。


 次なる敵は――


 蓮は静かに拳を握った。

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