第73話 魔の森の遺跡
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王都を発った蓮たちは、最小限の荷物を持ち、馬を駆って魔の森へと急いでいた。
国王の命を受け、少数精鋭の騎士団も同行しているが、彼らはあくまで補佐役に留まり、蓮たちが主導する形で作戦が進められている。
「まさか、こんなに早くまた魔の森へ戻ることになるとはな……」
シャムが手綱を引きながら、苦笑混じりに言った。
「けど、こうでもしないと帝国に遺跡を奪われるかもしれない。向こうが本格的に動く前に、こちらが先に手を打つしかないわ」
エルシアの言葉に、イリスも頷く。
「遺跡の場所はまだ特定できていないけれど、魔の森の奥深くに何かがあるのは確かよ。森に流れる魔力が通常とは異なる動きをしているのを感じるわ」
リーナがそう言いながら、周囲を警戒する。
「確かに……」
蓮も魔力感知を使って周囲の魔力の流れを探ると、奥へと吸い込まれるような不規則な波動があるのを感じた。まるで何かが呼吸しているかのように、魔力が一定の周期で揺らいでいる。
「これは、単なる封印の影響ではなさそうだな……」
「……ええ。これは"遺跡そのもの"が何らかの影響を及ぼしている可能性があるわ」
リーナが真剣な表情を浮かべた。
「慎重に進もう。何が起こるか分からない」
蓮の指示のもと、一行はさらに森の奥へと足を踏み入れていった。
魔の森の奥深くに入るにつれ、空気が変わっていくのを誰もが感じた。
「……気持ち悪いな」
シャムが周囲を見回しながら呟いた。
「魔力が乱れてるのが分かる。まるで……この森自体が何かに脅えているみたいだ」
エルシアが険しい表情で言う。
森に漂う魔力は不安定で、時折、幻影のように揺らぐ景色が見え隠れしていた。何かが"目覚めつつある"のかもしれない。
「見て! あれ……」
イリスが指さした先には、巨大な石柱が何本もそびえ立っていた。
「これは……遺跡の外郭か?」
蓮が近づくと、石柱には古代語で何かが刻まれていた。
「読める?」
リーナが蓮に尋ねる。
「少し待ってくれ……」
蓮はアイテムボックスから古代語辞典を取り出し、刻まれた文字を慎重に解読し始めた。
「……"ここに集うは、世界の理を知る者たち"……? いや、待て……"理を知る"じゃない。"理を創る"者たち……?」
「理を……創る?」
イリスが驚きの声を上げる。
「まるで、この遺跡が世界の根幹に関わる何かを秘めているみたいね」
リーナが真剣な顔で言った。
「続きがある。"時の流れに封じられし鍵、開くは召喚者の血"……?」
蓮の声に、全員が静まり返った。
「召喚者の血……?」
シャムが眉をひそめる。
「まさか……この遺跡を開くには、召喚者の血が必要だというのか?」
「いや、それだけじゃない。"時の流れに封じられし"とある。これはつまり、一定の時を経た今だからこそ封印が弱まり、開ける状況になっている、ということじゃないか?」
エルシアが推測する。
「もしそうなら、帝国が動き出した理由も納得がいくわね」
リーナが深く頷いた。
「……蓮、お前が試すしかねぇな」
シャムが蓮を見つめる。
「……そうだな」
蓮は短剣を取り出し、自らの指先に小さな傷をつけた。
血が石柱に触れた瞬間――
ゴゴゴゴゴ……ッ!
大地が揺れ、石柱が淡く発光し始めた。
「動いた……!?」
全員が警戒する。
すると、石柱の間にあった空間が揺らぎ、ゆっくりと巨大な扉が現れた。
「開いた……?」
蓮が慎重に前へ進むと、扉の中央にさらに文字が浮かび上がる。
「"求めよ、さらば答えを与えん"……?」
まるで、この遺跡が蓮たちを待ち受けていたかのようだった。
扉を抜けた先は、広大な地下空間だった。
「……こんな場所が森の地下にあったなんて」
エルシアが驚きの声を漏らす。
壁には無数の魔法陣が刻まれ、中央には巨大な石碑がそびえていた。
「これは……"召喚の記録"か?」
蓮が石碑に近づき、文字を読み上げる。
"世界の理は歪められた。召喚者はただの兵器ではない。彼らは、新たな世界の"礎"となる者たちである"
「……礎?」
「兵器じゃないって……どういうこと?」
イリスが困惑する。
「もしかして……この遺跡の目的は、召喚された者を"元の世界に返す"ことなんじゃない?」
リーナの推測に、全員が息を呑んだ。
「それが本当なら、帝国がこの遺跡を欲しがる理由も分かるな」
シャムが苦々しげに言う。
「……帝国はこの遺跡の力を使って、新たな召喚を試みるつもりかもしれない」
蓮は石碑に手を当てながら、深く考え込んだ。
「どうする、蓮?」
「決まってる。帝国の手には渡させない」
蓮の目が鋭く光る。
「この遺跡の全容を解明し、帝国の企みを阻止する。それが、俺たちのすべきことだ」
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