第72話 帝国の野望
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王都への帰還の道すがら、蓮たちは騎士団からの報告を受け、深刻な空気に包まれていた。
「帝国が……動き出した、か」
蓮は騎士の報告を反芻しながら、険しい表情を浮かべた。冥獄の王との戦いを終えたばかりの彼らにとって、これはあまりに早すぎる次の試練だった。
「おそらく、魔の森の異変が理由ね」
エルシアが静かに推測を口にする。
「奴ら、何を企んでやがる?」
シャムが苛立たしげに拳を握る。
「魔の森は未だ不安定な状態にある。封印が解かれたことで、森に流れる魔力の質が変わりつつあるの。帝国がそれを利用しようとしているのは明白ね」
リーナの言葉に、蓮は深く頷いた。
「確かに、魔の森には未だに未知の力が眠っている。だが、帝国の狙いがそれだけだとは思えない」
「……どういうこと?」
イリスが蓮を見つめる。
「俺を狙っている可能性が高い」
蓮のその言葉に、全員が息を呑んだ。
「確かに……帝国はお前を召喚した国だ。だが、いまさらどうしようってんだ?」
シャムの疑問に、蓮は腕を組みながら答える。
「俺の力が帝国にとって脅威になり始めているのかもしれない。あるいは……」
「取り戻そうとしている、ということ?」
エルシアの言葉に、蓮は無言で頷いた。
「馬鹿げてるわ。今さら帝国に戻るわけがないのに」
イリスが呆れたように言うが、蓮の胸には、嫌な予感が渦巻いていた。
「……とにかく、王都に戻ろう。国王と話をしなければならない」
一行はそのまま進み、王都へ向かった。
王都に帰還した蓮たちは、すぐに王城へと向かった。
国王はすでに帝国の動きを察知していたようで、すぐに蓮たちを謁見の間へと招いた。
「よくぞ戻った、蓮よ」
国王の表情は、緊張を孕んでいた。
「さっそくだが、帝国の動きについて詳しく話を聞かせてほしい」
蓮がそう言うと、国王は重々しく頷いた。
「帝国は先日、軍の大規模な動員を開始した。我が国との国境近くに兵を展開している」
「数は?」
「確認されているだけで、およそ五千。だが、まだ増える可能性がある」
「五千……」
蓮は眉をひそめた。決して少ない数ではない。
「彼らの目的は何でしょう?」
リーナが尋ねると、国王は険しい表情で答えた。
「魔の森の支配。そして、蓮……お前の身柄だ」
「……やはり」
蓮は静かに息を吐いた。
「なぜ、このタイミングで?」
エルシアが疑問を口にすると、国王は深く頷いた。
「どうやら、帝国はある情報を掴んでいるらしい」
「情報?」
「魔の森の異変が始まって以降、帝国は独自に調査を進めていた。そして、ある報告が上がってきたらしいのだ」
「……どんな?」
シャムが身を乗り出す。
「魔の森の奥深くに眠る"遺跡"の存在だ」
「遺跡……?」
蓮は驚いた表情を浮かべた。
「詳しくは分からん。しかし、帝国はその遺跡が"召喚に関わる"何かを秘めていると考えているようだ」
その言葉に、一同は息を呑んだ。
「召喚に関わる……だと?」
「召喚の秘密が、そこに?」
イリスとエルシアが驚きの声を上げる。
蓮は考え込む。
(もしそれが本当なら、帝国は俺を"召喚の鍵"として利用しようとしているのかもしれない)
そして――
「帝国が動き出したのは、それを利用するため……?」
リーナの呟きが、緊迫した空気を一層強めた。
「どうする?」
シャムが蓮を見つめる。
蓮はしばらく沈黙した後、ゆっくりと口を開いた。
「俺たちで、魔の森の遺跡を探しに行く」
「……!?」
全員が驚きの表情を浮かべる。
「帝国に遺跡を利用される前に、俺たちがその秘密を掴む。それが、最善の選択肢だと思う」
「でも……帝国軍が迫っているのよ?」
リーナが心配そうに言う。
「だからこそ、先手を打つ必要がある。帝国が遺跡の存在を完全に把握する前に、俺たちが動かなければならない」
蓮の決意は固かった。
「蓮がそう決めたなら、私はついていくわ」
イリスが微笑みながら言う。
「もちろん、私も」
エルシアが頷く。
「ったく、次から次へと面倒ごとが降ってくるな」
シャムは苦笑しながらも、拳を握りしめた。
「だけど……この世界の秘密が分かるかもしれねぇんだろ? 面白そうじゃねぇか」
「ふふっ、まったく……本当に、あなたたちは無茶が好きね」
リーナも微笑みながら、蓮の隣に立った。
「では、決まりだな」
国王が頷いた。
「蓮、お前たちの行動は我が国にとっても重要な意味を持つ。精鋭の兵士を少数ながら同行させる。彼らを活用してくれ」
「ありがとうございます、陛下」
蓮は深く頭を下げた。
こうして――
魔の森に眠る遺跡を巡る、新たな戦いの幕が開けた。
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