第71話 帰還と新たなる道
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冥獄の王の崩壊とともに、神殿の内部は静寂に包まれた。
黒き霧が完全に晴れ、崩れかけた天井からは淡い光が差し込む。長く続いた闘いが、ついに終わったのだ。
「……終わった、のか」
シャムが息を切らしながら剣を杖代わりに地面に突き刺した。
「ええ……私たちの勝利よ」
リーナもまた肩で息をしながら、呟く。エルシアは膝をつき、震える指先で魔法陣の消滅を確認した。
「完全に……消滅したわ。もう、奴の気配はどこにも感じられない」
蓮は大きく息をつくと、剣を鞘に収めた。
「皆、お疲れ様」
イリスが微笑む。彼女の体から放たれていた蒼炎の輝きも、徐々に収まりつつあった。
「お前こそな。最後の一撃……イリスがいてくれなきゃ決められなかった」
「ふふ……当然でしょ。私は蓮の相棒なんだから」
イリスが少し誇らしげに微笑む。蓮もまた、それに応えるように頷いた。
だが、その安堵も束の間――
ゴゴゴゴゴゴゴ……!!
「っ!? 何だ!?」
神殿全体が大きく揺れ始めた。天井の一部が崩れ落ち、地面にもひび割れが広がっていく。
「くそっ……! まさか、この場所自体が崩壊するのか!?」
シャムが焦りながら周囲を見渡す。
「冥獄の王がこの神殿の中枢に根を張っていた影響でしょうね。奴が消滅したことで、その均衡が崩れたのよ!」
エルシアが叫ぶ。
「なら……急いで脱出しないと!」
リーナの言葉に、全員が頷いた。
「全速力で走れ! 出口はもうすぐだ!」
蓮の号令とともに、一同は瓦礫を飛び越えながら神殿の外へと向かって駆け出した。
神殿の外へと続く長い回廊は、既に崩壊が始まっていた。
「こっちよ!」
イリスが先頭を走りながら、崩れかけた階段を飛び降りる。
「うおおおっ!?」
「転ぶなよ、シャム!」
「うるせぇ! こんな状況で冷静でいられるかっての!」
必死に駆け抜ける一行。しかし、最後の出口に到達した瞬間――
ドガァァンッ!!
背後で巨大な柱が崩れ、粉塵が一気に吹き荒れる。
「っ……!」
蓮は反射的に剣を振るい、飛んできた瓦礫を弾いた。
「あと少しだ! 皆、急げ!!」
「任せなさい!」
エルシアが素早く魔法陣を展開し、最後の崩れかけた石扉を吹き飛ばす。
「――今よ!」
全員が一斉に駆け出し、最後の瞬間、神殿の外へと飛び出した。
ズズズズ……!!
神殿が完全に崩れ落ちるのを、蓮たちは荒い息をつきながら見届けた。
「……ギリギリ、だったな」
蓮が息を整えながら呟くと、シャムが地面に寝転がりながら大きく笑った。
「ハハッ……生きてる、生きてるぜ……!」
「まったく、無茶ばかり……」
リーナも苦笑しながら座り込んだ。
「でも、これで……本当に終わったのね」
エルシアが遠くを見つめながら、静かに呟いた。
イリスがそっと蓮の隣に座る。
「お疲れさま、蓮」
「ああ……お前もな」
蓮はイリスの手をそっと握った。その温もりを感じながら、戦いの終わりを実感する。
だが――その安堵は、長くは続かなかった。
神殿跡地から王都へと戻る道の途中、蓮たちは突然、使者と遭遇した。
「蓮様! 皆様……無事でしたか!」
駆け寄ってきたのは、王都の騎士団の一人だった。
「どうした? 何かあったのか?」
「それが……急ぎ伝えなければならないことが!」
騎士団員は息を整えると、深刻な表情で蓮を見た。
「帝国が……動きました」
「……帝国が?」
蓮の表情が険しくなる。
「詳細を」
リーナが促すと、騎士は頷いて続けた。
「帝国が新たな兵を動かし、我々の国境へと迫っています。まるで、何かを狙うかのように……」
「……まさか」
エルシアが眉をひそめる。
「魔の森か」
蓮が低く呟くと、騎士は深く頷いた。
「おそらく……帝国は魔の森の変化に気づき、その支配権を握ろうとしているのではないかと」
「くそ……!」
シャムが拳を握りしめる。
冥獄の王との戦いが終わったばかりだというのに、新たな問題がすぐそこに迫っていた。
「これは……待ったなしね」
イリスが険しい表情で言う。
蓮は拳を握りしめ、深く息をついた。
「……王都へ戻ろう。そして、今後の動きを決める」
全員が頷いた。
休息の暇もない。
新たな戦いが、すでに幕を開けようとしていた――。
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