第69話 光と闇の狭間で
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「ぐっ……!」
神殿内に響くのは、仲間たちの苦しげな息遣いと、崩れゆく建物の軋む音だった。
冥獄の王――その存在は、ただそこにあるだけで世界の均衡を乱し、空間を歪めていた。
蓮は剣を杖代わりにして立ち上がる。背後ではシャム、リーナ、エルシアがそれぞれの傷を押さえながら、必死に態勢を立て直していた。
「はは……さすがに、厳しいな……」
シャムが苦笑しながら立ち上がる。しかし、彼の体にはいくつもの裂傷が走り、左腕はすでに動かせそうになかった。
「ちっ……このままじゃ、マズいわね……」
リーナも額に汗を滲ませながら呟く。
エルシアは震える指で魔道書を握りしめていた。
「"冥獄の王"……これは、正真正銘、災厄そのもの……」
彼女の声には、明らかな恐怖が滲んでいた。
「ククク……いいぞ、その絶望に染まる顔……実に心地よい……」
冥獄の王の無数の目が妖しく輝き、黒き霧がさらに濃さを増していく。その気配だけで、まるで世界全体が飲み込まれていくようだった。
"このままでは、本当に全滅する"
蓮の脳裏に、最悪の未来がよぎる。
「……なら、やるしかないだろうが」
蓮は剣を構えた。
"崩滅の閃光"
魔力を極限まで高め、剣に光を宿らせる。
「くらえぇぇぇぇぇっ!」
輝く刃が冥獄の王へと襲いかかる。
しかし――
「愚かだな」
冥獄の王は微動だにせず、ただ手をかざしただけで、蓮の必殺の一撃を闇へと呑み込んだ。
「っ……!?」
蓮の顔が凍りつく。
「まさか、完全に……?」
「ククク……その程度で、我を討てるとでも思ったか?」
冥獄の王は不敵に嗤うと、ゆっくりと手を掲げた。
「貴様らに、慈悲を与えよう――"深淵の降誕"」
瞬間、神殿全体が揺れた。
地面が割れ、闇が溢れ出す。
「まずい……!」
リーナが咄嗟に防御魔法を展開するも、冥獄の王の力はそれをあっさりと打ち破る。
「クッ……!」
漆黒の波動が蓮たちを包み込み、全身を押し潰すような圧力が襲いかかる。
視界が暗転し、意識が遠のいていく。
"ここまで……なのか……?"
そんな考えが、蓮の脳裏をよぎった瞬間――
「この程度で諦めるな、蓮!」
声が響いた。
「お前なら、もっと足掻けるはずだろうが!」
それは、誰よりも信頼する相棒の声だった。
シャムの叫びが、蓮を覚醒させる。
「……そう、だな」
蓮は歯を食いしばり、剣を握り直した。
「まだ、終わりじゃねえ」
闇を振り払い、再び立ち上がる。
そして、その時だった――
「……ん?」
冥獄の王が、わずかに目を細めた。
神殿の天井に、一筋の光が差し込んでいた。
黒に染まりゆく空間に、純白の輝きが侵入する。
「この光は……?」
シャムが驚きの声を上げる。
リーナとエルシアも顔を上げた。
「まさか、これは……!」
「……おかえりなさい、蓮」
静かな声が、光の中から響いた。
「その声……!」
蓮が振り向くと、そこにいたのは――
蒼き翼を持つ、美しき竜の姿。
「イリス……!」
蓮の呼びかけに、イリスは微笑んだ。
「少し、休んだからね。もう、大丈夫」
彼女の蒼き光が、冥獄の王の闇をかき消していく。
「馬鹿な……何故、この封印空間に"光"が……!?」
冥獄の王が焦りを見せる。
イリスは静かに、しかし力強く言い放った。
「闇がどれほど深くとも、それを断ち切る光がある限り、絶望には染まらない」
彼女の体が眩く輝き、神殿全体を青白い光が包み込んだ。
「さあ、反撃開始よ!」
イリスの宣言と共に、蓮たちは再び剣を握りしめた。
「おうよ!」
シャムが血気盛んに叫び、リーナが魔力を解放する。
エルシアも覚悟を決めたように杖を構えた。
「さあ、冥獄の王……ここからが、本番だ!」
蓮が前に踏み出す。
それに応じるように、冥獄の王が笑った。
「フフフ……面白い」
「ならば、全てを破壊するまでだ!」
闇と光の激突が、今まさに幕を開けようとしていた――!
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