第68話 災厄の序章
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「次なる"災厄"は、すでに目覚めつつある……!」
ガルヴァンの言葉に、蓮は剣を構えたまま警戒を強めた。
「奈落の獣を倒したというのに、まだ何かあるってのか……!」
シャムが悔しげに拳を握る。リーナやエルシアも油断なく魔力を練り、次なる戦いに備えていた。
だが、そんな中、イリスが奈落の獣との戦闘で疲労し、膝をつく。
「イリス!」
蓮が駆け寄ると、イリスは苦笑しながら手を振った。
「平気よ……ただ、少し無理しちゃったみたい……」
彼女の体を包んでいた蒼白い光が薄れ、竜化が解けていく。それはつまり、しばらくの間、彼女が竜の力を使えないことを意味していた。
「どうやら、次の戦いは私抜きで頑張ってもらうことになりそうね」
イリスの言葉に、蓮たちはますます警戒を強める。
ガルヴァンはそんな様子を見て、くつくつと喉を鳴らした。
「フフフ……いいぞ。その怯えた目、絶望の予感に満ちた表情こそ、我が主への最高の供物となる」
彼がそう言うと、崩れた祭壇の奥で何かが蠢き始めた。
「……っ!」
全員の背筋が凍りつく。
祭壇の中央に刻まれた巨大な魔法陣が、漆黒の光を放ちながらゆっくりと回転し始めたのだ。
「これは……!?」
エルシアが驚きの声を上げた。
「この魔法陣……まさか、封印を解くためのもの!?」
「その通りだ」
ガルヴァンは満足げに頷く。
「奈落の獣は、単なる"鍵"に過ぎん。本当に目覚めさせるべき存在は、これから生まれ出ずるのだ」
「ふざけるな!」
蓮が怒りを込めて剣を振るう。
「"崩滅の閃光"!」
眩い光の刃がガルヴァンへと放たれる。だが――。
「無駄だ」
ガルヴァンは微動だにせず、目の前に現れた黒い壁が攻撃をかき消した。
「こいつ……!?」
リーナが驚く。
「すでに"災厄"の力はこの地に満ちつつある。この身に宿る闇もまた、主の恩寵によって強化されているのだ」
ガルヴァンの足元で黒い靄が渦巻き、その身体を覆い始める。
「ちっ、こいつも倒さなきゃならねえってことか!」
シャムが剣を構え、前へと踏み出す。
「ええ、でも……それだけじゃないわ」
エルシアが魔法陣を指差しながら、厳しい表情で言う。
「この儀式を止めなければ、本当に"災厄"が目覚めてしまう!」
「つまり……ガルヴァンを倒しつつ、魔法陣もどうにかしないといけないってことか」
蓮は周囲を見渡し、作戦を考える。
「エルシア、リーナ、イリスは魔法陣の制御を試みてくれ。俺とシャムでガルヴァンを抑える!」
「了解!」
仲間たちは即座に動き出した。
だが――その瞬間。
「……遅い」
ガルヴァンの目が妖しく光った。
次の瞬間、魔法陣が強烈な光を放ち、空間が歪む。
「な、何だ!?」
「……間に合わなかった!?」
エルシアが焦りの声を上げる。
そして――。
神殿の奥底から、不気味な黒い腕がゆっくりと這い出してきた。
「――ククク……久しぶりだな、この空気」
不気味な声が響く。
「この世界に再び、"終焉"をもたらす時が来たか……」
神殿全体が震え、壁が崩れ落ちる。
「これは……!?」
シャムが息を呑む。
現れたのは、黒き霧に包まれた異形の巨躯。
その身体には、無数の目が光り、背中からは異質な触手が伸びていた。
「まさか……"冥獄の王"!?」
エルシアが青ざめる。
「知ってるのか!?」
蓮が問うと、エルシアは震える声で答えた。
「……伝説に語られる、かつて世界を滅ぼしかけた邪神。その一端に過ぎない存在だけど、それでも……強大な力を持っている……!」
「ククク……面白い。貴様らがどれほど足掻こうが、この身の復活は止められん」
冥獄の王が腕を掲げると、空間が歪み、周囲の魔力が吸い込まれるように揺らいだ。
「まずは、その絶望を味わうがいい」
次の瞬間、黒き波動が放たれた。
「くっ……!」
蓮は咄嗟に剣を振るい、防御を試みるが――。
衝撃が炸裂し、蓮たちは吹き飛ばされる。
「ぐっ……!?」
全員が床に叩きつけられ、神殿内に悲鳴が響いた。
「これが……災厄の力……!?」
リーナが呻く。
冥獄の王がゆっくりと歩を進める。
「さて……絶望に沈む準備はできたか?」
その言葉に、蓮は震える身体を起こしながら、剣を握りしめた。
「……そんなもん、させるわけねえだろうが」
彼の瞳には、まだ炎が灯っていた。
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