第7話 異世界転移者、シャム
盗賊団「黒の牙」の幹部、シャム。
彼もまた、蓮と同じ異世界からの転移者だった。
彼がなぜ盗賊団にいるのか? 彼の目的は何なのか?
激しい戦闘の中、蓮はシャムの過去と、この世界に隠された真実を知ることになる――。
「ははっ、まさかこんなところで同郷のヤツに会うとはなぁ!」
シャムは愉快そうに笑いながら、短剣を弄ぶように回転させた。
「……お前も日本から来たのか?」
蓮は警戒を解かずに問いかける。
「おうよ。まあ、俺はちょっと違う経緯でな」
「どういうことだ?」
「おっと、それを話すかどうかはお前の力量次第だぜ?」
シャムはニヤリと笑い、次の瞬間――
「≪バニッシュステップ≫!」
再び姿を消した。
(来る――!)
蓮は直感で横へ跳躍する。
「……っと、避けるか」
シャムの短剣が蓮の頬をかすめる。
(こいつのスキル……瞬間移動に近いものがあるな)
蓮は短剣の軌道を読みながら、反撃の魔法を準備する。
「≪フレイムスパイク≫!」
地面から炎の槍が突き出し、シャムの足元を狙う。
「っと、危ねぇ!」
シャムは軽やかに回避しながらも、驚いたように目を見開いた。
「へぇ、お前、魔法使えるのか。ってことは、【万能型】のスキル持ちか?」
「……万能型?」
「ははっ、お前はまだ知らねぇのか。異世界転移者にはいくつかのタイプがあるんだよ」
シャムは戦いながら、楽しげに語る。
「例えば俺みたいな【スキル特化型】。これは、一つのスキルが極限まで強化されるタイプだ。俺の場合は≪バニッシュステップ≫がそれに当たる」
「……なるほど」
「そして、お前みたいな【万能型】。これは複数のスキルや魔法を扱えるが、尖った能力はない」
「……つまり、お前の≪バニッシュステップ≫は、普通のスキルとは一線を画してるってことか」
「正解!」
シャムは楽しげに指を鳴らし、再び瞬間移動を繰り出した。
「だがよ、万能型は強いんだぜ? 使いこなせりゃ、無双できるからな!」
蓮は冷静に魔法を展開しながら、シャムの動きを分析する。
(……確かに、万能型は可能性が広い。でも、極限まで特化したスキルと真正面からやり合うのは得策じゃないな)
蓮はすぐに方針を決め、次の行動に出た。
(正面からじゃダメだ。なら――)
蓮は周囲の地形を活用しながら、シャムの移動先を予測する。
(瞬間移動は強力だが、距離や発動の間隔には制限があるはずだ)
「≪エアカッター≫!」
蓮はあえてシャムの移動先に風の刃を放つ。
「っと……おいおい、俺の動きを読んでんのか?」
シャムは驚いたように笑う。
「……まあな」
(少しずつ、こいつのスキルのパターンが見えてきた)
蓮は再び魔法を構え、シャムの次の行動に備えた。
「いいねぇ……そうこなくっちゃ!」
シャムは嬉しそうに笑うと、さらに速度を上げて突進してきた――!
激しい戦いが続く中、蓮はふと疑問を口にした。
「……お前は、なんで盗賊なんかに?」
「ん? ああ、そっちが気になるか」
シャムは一瞬動きを止め、短剣をクルクルと回す。
「単純な話さ。俺は召喚された時、クソみてぇな貴族どもに『道具』扱いされたんだよ」
「……!」
「お前もそうだったんじゃねぇのか? 召喚された国で、無理やり戦わせられそうになったんだろ?」
「……ああ」
「だろ? 俺はそれが嫌で逃げた。けど、異世界に放り出された俺みたいなヤツに居場所なんてねぇ」
シャムは苦笑する。
「それで盗賊団に?」
「そういうこった。まあ、悪くはねぇよ? この世界は力がすべてだ。強けりゃ生きていける。逆に弱けりゃ……クズみてぇな死に方をするだけだ」
「……」
蓮はシャムの言葉に、どこか共感する自分がいた。
(こいつも……俺と同じように、異世界に翻弄された人間なんだ)
だが――
「だからって、盗賊になって好き勝手していいわけじゃない」
蓮は冷静に告げる。
「獣人の里を襲い、罪のない人を傷つけるのは、間違ってる」
「……」
シャムは一瞬、言葉を失った。
「……ハハッ、正論だな」
シャムは苦笑しながら短剣を構え直す。
「けどよ、正論だけじゃ生きていけねぇんだよ、この世界は」
「だったら、俺が証明してやる」
蓮は炎を纏った剣を構え、真っ直ぐにシャムを見据えた。
「力がすべての世界なんかじゃない。俺が――変えてみせる」
「……面白ぇ」
シャムの目に、かすかに迷いが生まれた。
だが、次の瞬間――
「来いよ、異世界の救世主さんよ!」
再び、激突の時が訪れた――!