第66話 新たなる脅威
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「……思ったよりも、手こずったな」
蓮は封印の間を見渡しながら、大きく息をついた。
長時間にわたる魔力の放出と、魔の残滓との戦闘の影響で、体がずしりと重い。だが、封印は無事に修復され、エゼキエルの力は再び封じられた。
「本当に大丈夫なの?」
リーナが封印の魔法陣を見つめながら、エルシアに問いかける。
「ええ、もう問題ないわ。ただ……」
エルシアは眉をひそめた。
「封印は修復されたけれど、完全に消耗してしまったわけではないの。信奉者たちがまた何か仕掛けてきたら……今度は耐えきれないかもしれない」
「そうか。じゃあ、これ以上好き勝手されないように、信奉者どもを根こそぎ潰しておく必要があるな」
蓮は剣を鞘に収めながら、周囲を見渡した。
すでに戦闘が終わり、神殿内の脅威は排除されたかに思えた。だが、嫌な予感が消えない。
「……そういえば、奴らのリーダー格はどこに行った?」
「確かに……俺たちが倒したのは雑兵ばかりだったな」
シャムが辺りを見回しながら言う。
「可能性があるとすれば、奥の部屋ね。まだ探索していない場所があるはずよ」
エルシアが指差す方向には、神殿の奥へと続く長い廊下があった。
「……行ってみよう」
蓮たちは慎重に進みながら、奥の部屋へと向かった。
神殿の最奥にたどり着くと、そこには異様な光景が広がっていた。
床には無数の魔法陣が刻まれ、中央には血のような赤黒い光が渦巻いている。そして、その前に立つのは、黒装束の男たち。
「……やはり来たか」
中心に立つ男が、ゆっくりと振り向いた。
長い銀髪を持ち、冷たい眼差しを向けてくるその男――エゼキエルの狂信者たちを率いる司祭、ガルヴァンだった。
「貴様らが封印を修復するのは織り込み済みだ」
ガルヴァンは薄く笑いながら、渦巻く魔力の中心を指し示す。
「だからこそ、我々は新たな計画を進めていたのだよ」
「……嫌な予感がするな」
蓮は剣を構えながら、一歩前へ出る。
「一体、何をするつもりだ?」
「お前たちが封印を修復したことで、エゼキエル様は今しばらく目覚めることはできなくなった……。ならば、その力を新たな器へと移すまで」
「なに……?」
リーナが驚きの表情を浮かべる。
「封印されているエゼキエル本体ではなく、その力を別の何かに移そうとしているのか……?」
「その通りだ。我々は"媒介"を用意し、この神殿に眠る怨念を力として新たな存在を生み出す」
ガルヴァンは手を掲げると、渦巻く魔力がさらに激しく揺らめいた。
「来たれ、新たなる神の眷属よ……!」
瞬間、魔法陣が光を放ち、暗黒のエネルギーが爆発的に広がった。
「くっ……!」
蓮たちはとっさに防御の姿勢を取るが、その衝撃波に吹き飛ばされそうになる。
そして、魔法陣の中心から、異形の存在がゆっくりと姿を現した。
それは、エゼキエルとは異なるものだった。
巨大な黒き獣の姿を持ち、無数の目が蠢く――まるで、悪夢のような存在。
「――"奈落の獣"よ」
ガルヴァンが崇拝するように呟いた。
「こいつが……新たな脅威か」
蓮は剣を握りしめ、視線を鋭くする。
奈落の獣は低く唸ると、その巨大な腕を振り下ろした。
「来るぞ!」
その頃――。
王都では、新たな問題が発生していた。
「何……? 帝国軍が再び動きを見せた?」
国王の表情が険しくなる。
「はい。どうやら、こちらの動きを察知し、軍を展開し始めたようです」
宰相が厳しい表情で報告する。
「まだ大規模な戦争には発展していませんが、何らかの策を講じる必要があります」
「……なるほどな」
国王は腕を組み、しばらく沈黙した後、重々しく口を開いた。
「蓮が戻り次第、対策を練る必要があるな」
「しかし、蓮殿はまだ神殿での任務中……間に合うでしょうか?」
「それでも、彼ならば――」
国王は窓の外を見つめながら、静かに言った。
「必ず、この危機を乗り越えてくれるだろう」
「ぐっ……!」
蓮は間一髪で奈落の獣の攻撃を回避し、剣を振るった。
しかし、その刃は獣の表面をかすめるだけで、深いダメージを与えることができない。
「こいつ……普通の攻撃じゃ倒せないのか?」
「この魔力……封印されていたエゼキエルの一部を取り込んでいるのかもしれない!」
エルシアが鋭く分析する。
「なら……こっちも、全力でぶつかるしかないな!」
蓮は剣を構え、魔力を最大限に高めた。
「"崩滅の閃光"!」
次の瞬間、神殿を震わせるほどの閃光が放たれ――。
蓮たちの新たな戦いが、ここに始まった。
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