第65話 封印の修復
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神殿の中は、まるで時が止まったかのように静まり返っていた。
蓮たちは倒れた黒装束の男を確認した後、急いで神殿の奥へと向かった。神殿の中心にある封印の間こそ、エゼキエルを封じ込めている場所だった。
「……魔力の流れが乱れている」
エルシアが額に手を当て、周囲の魔素の流れを感じ取る。
「封印が完全に壊れてはいないけれど、このまま放置すれば確実に崩壊するわ」
「やっぱりな」
蓮は低く唸りながら、目の前に広がる光景を見つめた。
封印の間には、巨大な魔法陣が刻まれていた。しかし、その大部分がすでに崩れかけており、ところどころ亀裂が走っている。中央には、黒い霧のようなものが漏れ出していた。
「まずいな……エゼキエルの力が浸食を始めている」
リーナが険しい表情で呟く。
「これを修復するには、元の術式を理解した上で、正確に再構築しなければならない」
エルシアが神殿の壁に刻まれた古代文字を指し示す。
「封印は、四つの核となる魔法陣によって支えられている。それぞれに膨大な魔力を流し込み、正しい術式を描き直す必要があるわ」
「そんなに難しいのか?」
シャムが眉をひそめる。
「術式自体が非常に精密なものなの。少しでも間違えれば、封印が完全に崩れてしまう可能性があるわ」
エルシアの言葉に、一同の緊張感が増す。
「俺は何をすればいい?」
蓮が即座に尋ねると、エルシアは頷いた。
「封印の核を修復するには、大量の魔力が必要になる。あなたの魔力供給が鍵になるわ」
「なるほどな。魔力のコントロールは任せろ」
蓮は拳を握りしめる。
「じゃあ、俺は何を?」
シャムが尋ねると、エルシアは彼を見て微笑んだ。
「封印の間には、まだ敵が残っているかもしれない。万が一、邪魔が入らないように警戒をお願い」
「了解」
シャムは剣を抜き、周囲を見渡す。
リーナは既に術式の確認を始めており、イリスも警戒しながら封印の間を巡っていた。
「準備はいい?」
エルシアの声に、蓮とリーナが頷く。
「行くぞ!」
蓮は魔力を解放し、封印の核へと注ぎ込んだ。
瞬間、魔法陣が淡い光を放ち始める。
「そのまま……! 次に、私が術式を再構築する!」
エルシアが杖を掲げ、封印の文字を書き直していく。
すると、封印の間全体が振動を始めた。
「……何かがおかしい」
リーナが眉をひそめる。
「確かに……封印の中から、何かが……!」
イリスが低く唸る。
次の瞬間、封印の中央から黒い霧が吹き出し、巨大な影が浮かび上がった。
「な、なんだあれは……!」
シャムが驚愕する。
影の中から現れたのは、巨大な獣のような姿をした異形の存在だった。
「エゼキエル……ではないわ。これは、封印の中で生まれた"魔の残滓"よ!」
エルシアが鋭く叫ぶ。
「魔の残滓……?」
「封印が長年にわたって魔力を圧縮し続けた結果、生じた副産物のようなものね。純粋な悪意の集合体とも言えるわ」
「厄介だな……こいつを倒さないと封印を修復できないってことか」
蓮が剣を構えた。
「その通りよ。だけど気をつけて! この存在は、普通の魔物とは違う……!」
魔の残滓は低く唸ると、黒い触手を伸ばし、一行に襲いかかってきた。
「来るぞ!」
蓮が瞬時に回避しながら、剣を振るった。
「"焔斬"!」
刃から放たれた炎の斬撃が魔の残滓を切り裂く。しかし、黒い霧が再び集まり、すぐに傷が塞がる。
「再生が早い……!」
「魔力を吸収してるのよ! 通常の攻撃では倒せないわ!」
エルシアが警告する。
「なら、魔力を込めた攻撃ならどうだ!」
蓮は剣を構え、魔力を極限まで高めた。
「"滅閃・破煌"!」
剣から放たれた閃光が、魔の残滓を直撃する。
「ギャアアアア……!」
魔の残滓は苦しみながらもがき、ついに霧が晴れ始めた。
「いまだ、エルシア!」
「ええ!」
エルシアは封印の核に最後の術式を描き込み、封印が再び発動する。
すると、魔の残滓はゆっくりと収縮し、封印の中心へと吸い込まれていった。
「……成功、した?」
リーナが息を整えながら尋ねる。
封印の間には、静寂が戻っていた。
「……ああ。封印は、完全に修復された」
エルシアが微笑みながら頷く。
「やったな……!」
蓮が大きく息をつく。
こうして、エゼキエルの封印は再び安定し、神殿の奪還は無事に完了したのだった。
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