第63話 封印の鍵
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王都の門が見えた頃、蓮たちは無言のまま歩を進めていた。
エルシアの語った「エゼキエルの真の力」――"存在の否定"という言葉が頭から離れない。
「この世界が消滅する……か」
蓮は小さく呟き、空を仰いだ。
遠くに見える王城の尖塔が、雲の切れ間から光を浴びて神々しく輝いている。しかし、その神聖な光景すら、今はどこか虚ろに思えた。
「蓮、考えすぎよ」
リーナが隣に並び、彼の腕にそっと触れる。
「今は、できることをするしかないわ」
「……そうだな」
蓮は軽く息を吐き、気を引き締めた。
この戦いにおいて、迷いや動揺は命取りになる。
◆◇◆
王城の謁見の間に通された蓮たちは、王の到着を待っていた。
「……この部屋は落ち着かんな」
イリスが不機嫌そうに腕を組みながら呟く。
「どうしてこんなにも人間の気配に満ちているのだ?」
「そりゃあ、人間の国の城だからな」
シャムが苦笑しながら応じる。
「フン。私にとっては快適とは言えん」
イリスは鼻を鳴らした。
だが、その態度とは裏腹に、彼女の金色の瞳は微かに緊張を帯びていた。
――間もなく、この国の王と対面する。
普段は尊大に振る舞う彼女も、内心ではこの場の重要性を理解しているのだろう。
やがて、重厚な扉が開き、王が姿を現した。
「よくぞ戻った、蓮よ」
深みのある声とともに、王は堂々たる歩みで玉座へ向かう。
その後ろには宰相や護衛の騎士たちが控えていたが、その威厳に満ちた振る舞いは、王という立場が単なる地位ではなく、確かな力と責任に裏打ちされたものであることを示していた。
蓮は軽く頭を下げる。
「ただいま戻りました」
王は微かに微笑み、次にエルシアへと目を向けた。
「……そなたが"賢者エルシア"か。歴史の闇に消えたと聞いていたが、生きていたとは」
「ええ、陛下。長らく表舞台からは身を引いておりましたが、今はこうして再び力を貸す時が来たようです」
エルシアは落ち着いた口調で答える。
王は満足げに頷いた。
「それは心強い。我が国にとって、そなたの知識と助言は計り知れぬ価値がある」
そして、王はゆっくりとイリスへ視線を移した。
「……そして、そなたが"古代竜"か」
「そうだ。我こそはイリス・アルヴィオン。幾千年の時を生きる古の竜だ」
イリスは誇り高く胸を張る。
「王よ、人間の王としての礼儀は心得ているようだが、我に対する態度次第では――」
「――そなたに最大の敬意を」
イリスの言葉を遮るように、王は静かに膝をついた。
「……なに?」
その場にいた全員が驚愕する。
王は、イリスの前で片膝をつき、深く頭を下げたのだ。
「我が国の王として、古代竜に敬意を表することは当然の義務。そなたの存在は、この国、いや世界の歴史において計り知れぬ重みを持つ」
イリスの黄金の瞳が大きく揺れる。
「我は……」
言葉を失った彼女に、王は静かに微笑んだ。
「我が名はアレクシス・ヴェルフォード。この国を治める者として、そなたの知恵と力を借りたい」
「……ふん、なかなかできた人間だな」
イリスはわざと鼻を鳴らしながらも、その表情には戸惑いが見えた。
人間の王が、竜に対してこれほどの敬意を示すとは思っていなかったのだろう。
蓮は密かに笑いそうになったが、それを堪えた。
「さて、では本題に入ろうか」
王が立ち上がり、表情を引き締める。
「神殿に異変があると聞いた」
「はい」
エルシアが進み出る。
「エゼキエルを再封印するためには、神殿に残された"古代の術式"が必要です。しかし、その神殿はすでに何者かによって占拠されています」
「何者か……」
王の表情が険しくなる。
「心当たりはあるか?」
「……まだ確証はありませんが」
エルシアは一瞬、ためらいがちに蓮の方を見た後、静かに言った。
「……おそらく、エゼキエルの復活を望む者たちでしょう」
「……っ!」
重苦しい空気が流れる。
もしその推測が正しければ、神殿を奪還することは容易ではない。
「陛下、すぐに神殿へ向かう準備を」
蓮は強い決意を込めて言った。
「これ以上、エゼキエルの力が解放される前に、手を打たなければなりません」
「うむ……」
王は目を閉じ、しばし考える。
「ならば、こちらも精鋭を送り込むとしよう。蓮、そなたが指揮を執るのが最も適任だろう」
「……承知しました」
こうして、蓮たちは"神殿奪還作戦"を開始することになった。
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