第62話 賢者の警告
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「……エゼキエルが、この世界を根底から覆そうとしている?」
蓮はエルシアの言葉を反芻しながら、彼女をまっすぐに見据えた。
「詳しく聞かせてくれ」
「ええ。その前に――」
エルシアはゆっくりと周囲を見回した後、小さく息を吐いた。
「ここは話すには適さない。王都まで同行させてもらえますか?」
その提案に蓮は一瞬考えたが、即座に頷いた。
「……分かった。ただし、こちらも警戒は解かない」
「当然です」
エルシアは穏やかに微笑むと、リーナとイリスにも視線を向ける。
「あなた方も、私のことが気になりますか?」
「当然ですわ」
リーナが鋭い視線を向ける。
「あなたが本当に"賢者エルシア"なら、なぜ今まで歴史の中に姿を消していたのか、説明していただかないと」
「ふふ、手厳しいですね」
エルシアはクスリと笑い、イリスにも視線を移す。
「あなたも何か言いたそうですね?」
「……ええ。でも、それは王都についてからでいい」
イリスは静かに答えた。
「今は、あなたが敵か味方かを見極める時間が必要だから」
「賢明な判断です」
エルシアは頷くと、再びフードを被った。
「では、参りましょう」
こうして、蓮たちはエルシアを連れて王都へと向かうことになった。
王都への道のりは、静けさに包まれていた。
帝国軍の撤退によって各地の村々は安堵の色を見せ始めていたが、それでも完全に安心しきれる状況ではない。
蓮たちは慎重に道を進みながらも、警戒を怠らなかった。
「……さっきから気になってたんだが」
シャムがふと、エルシアの隣を歩きながら口を開いた。
「お前、なんでそんなに落ち着いてるんだ?」
「落ち着いている?」
エルシアは不思議そうにシャムを見た。
「ああ。エゼキエルの復活を知ってるなら、普通もっと焦ってるもんだろ」
「……なるほど」
エルシアは微笑み、少しだけ足を止めた。
「焦っても、問題は解決しません。むしろ、冷静に事態を分析し、適切な対応を取ることこそが、私の役目ですから」
「役目……?」
シャムが眉をひそめる。
「エゼキエルの目的を知っているなら、そいつを止める方法もあるってことか?」
「ええ。ですが、それには準備が必要です」
エルシアの言葉は確信に満ちていた。
「……どういうことだ?」
蓮が問いかけると、エルシアは森の木々を見上げながら答えた。
「エゼキエルは、完全に目覚めたわけではありません。今の彼は、いわば"欠片"の状態……ですが、それでも彼はこの世界を滅ぼす力を持っています」
「"欠片"の状態……?」
リーナが訝しげに眉を寄せた。
「なら、完全復活したらどうなるの?」
「……この世界は、間違いなく消滅するでしょう」
エルシアの言葉に、空気が一気に張り詰めた。
「……冗談だろ」
シャムが息を呑む。
「エゼキエルの本当の力は、"存在の否定"です」
「存在の否定……?」
「彼の力は、ただ破壊するのではなく、この世界そのものを"無"へと還すもの」
「……!」
蓮たちは、息をのんだ。
「彼が完全に目覚めれば、この世界は"世界"であることをやめ、虚無の闇へと帰結します」
「そんなバカな……」
イリスが驚愕の表情を浮かべた。
「本当にそんなことが可能なの?」
「ええ。彼はもともと、この世界の理そのものから切り離された存在……いわば、"世界外の存在"ですから」
「"世界外の存在"……?」
「エゼキエルは、かつてこの世界を創り出した神々が"消去"しようとした存在でした」
「神々が……?」
「ですが、彼を完全に消し去ることはできなかった。そのため、彼は封印されたのです」
「じゃあ、今の状態は……?」
「封印が弱まり、彼が目覚めかけている……ですが、完全ではありません」
「つまり、今ならまだ手を打てるってことか?」
蓮が問いかけると、エルシアはゆっくりと頷いた。
「はい。ですが、それには"鍵"が必要です」
「鍵?」
「エゼキエルを再び封じるためには、彼を封印するための"古代の術式"を修復しなければなりません」
「それは、どこに?」
「……王都にある"神殿"です」
「神殿……」
リーナが小さく息を吐く。
「そこに、エゼキエルを封じる術式が?」
「はい。ただし……」
エルシアは一瞬、言葉を濁した。
「ただし……?」
「その神殿は、すでに"何者か"によって占拠されています」
「……!」
蓮たちは、思わず顔を見合わせた。
「やっぱり、一筋縄ではいかねえな……」
シャムが苦笑する。
「……とにかく、まずは王都に戻ろう」
蓮は前を向き、足を進めた。
「詳しい話は、王城で聞く」
「……ええ」
エルシアも静かに頷く。
こうして、彼らは王都へと歩みを進めるのだった。
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