第61話 王都への帰還
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「はぁ……何とか生き延びたな」
戦場に残された荒野を見渡しながら、シャムが肩を落とす。
「まだ実感が湧かねえよ……まさか、あんなバケモンが封印されてたとはな」
「まったくだ」
蓮は息を整えながら、剣を収める。先ほどの戦いの余韻が、まだ体に残っていた。
エゼキエル――災厄の王。その力は、四天王とは比較にならないほど圧倒的だった。蓮とシャムが全力を出しても、指一本で受け流されるほどの強大な存在。
「もし、アイツが本気だったら……」
シャムが歯を食いしばる。
「……多分、俺たちはここで終わってた」
あの掌打の一撃は、まるで質量を持った雷のように重く、強烈だった。防御魔法がなかったら、今頃どうなっていたか分からない。
「幸い、完全な復活じゃなかったのが救いだな」
蓮は地面に突き立てられた自分の剣を引き抜く。
「このまま、王都に戻ろう。さすがにもう戦う余力はない」
「そうだな……それに、アイツらの動向も気になるしな」
シャムがちらりと周囲を見回す。
四天王の残り三人――彼らは、エゼキエルの異様な魔力を感じ取ると同時に、戦場から姿を消していた。
「帝国に逃げ帰ったと見て間違いないだろうな」
「だろうな……だが、どうしても腑に落ちない」
「何がだ?」
シャムが問いかけると、蓮は目を細めながら答える。
「エゼキエルの復活を知ったのなら、奴らが俺たちと戦うより、むしろヤツの力を借りようとするはずだろ?」
「……確かに。アイツら、結局エゼキエルとは接触しなかったよな」
「それどころか、エゼキエルの気配を感じた瞬間、即座に逃げた」
「……まさか、アイツらですら手に負えないってことか?」
「……その可能性が高い」
エゼキエルが復活したということは、世界に新たな災厄が生まれたことを意味する。しかし、四天王の残党がそれを知りながらも共闘しようとしなかったのは、彼らにとってすらエゼキエルが『敵』となる存在であるからだろう。
「……とにかく、今は王都に戻って報告しよう」
蓮は背を向け、シャムたちと共に戦場を後にした。
王都への帰還の道中、蓮たちは静かな森を抜け、いくつかの村を通りながら進んだ。
「随分と静かだな……」
シャムが周囲を警戒するように言う。
「戦争が終わったばかりだしな。まだみんな不安なんだろう」
帝国軍が撤退し、敵将ヴァレリアも討ち取ったとはいえ、完全に脅威が去ったわけではない。
それに、エゼキエルという新たな脅威が現れた以上、戦いはこれで終わりではないのだ。
「……ん?」
蓮は背後にわずかな気配を感じ、足を止める。
「どうした?」
「……誰かがついてきている」
シャムも即座に察知し、剣を抜いた。
「出てこい、隠れてるのは分かってる」
静寂が訪れた――
すると、茂みの奥から現れたのは、一人のフードを深く被った人物だった。
「……!」
蓮は即座に構えを取る。
だが、その人物はすぐに両手を挙げ、敵意がないことを示した。
「待ってくれ。私は敵じゃない」
フードの奥から聞こえてきたのは、若い女性の声だった。
「……誰だ?」
蓮が問い詰めると、女性は静かにフードを外した。
「私は……エルシア。この世界の行く末を憂う者だ」
蓮とシャムは顔を見合わせる。
「エルシア……?どこかで聞いたことがあるような……」
「……お前、まさか」
シャムが目を見開く。
「――賢者エルシア、か?」
「……そうだ」
その名は、数百年前に存在したとされる伝説の賢者の名だった。
「なぜお前がここに……? いや、そもそも生きているのか?」
エルシアは静かに頷いた。
「……長い話になる。だが、あなたたちには伝えなければならない」
彼女の瞳には、決意の光が宿っていた。
「エゼキエルは、ただの災厄ではない。この世界を――根底から覆そうとしている」
蓮はその言葉を聞き、拳を握りしめる。
「……詳しく聞かせてもらおう」
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