第6話 黒の牙の襲撃
獣人の里への正式な加入を果たした蓮。しかし、その喜びも束の間、盗賊団「黒の牙」が里への襲撃を計画していることが判明する。
獣人たちを守るため、蓮は戦士長ガイルと共に迎撃に向かうが――そこには思わぬ敵が待ち受けていた。
――夜。
獣人の里は、普段と変わらぬ静けさに包まれていた。
しかし、蓮の心は落ち着かなかった。
(黒の牙……獣人の里を狙っている盗賊団、か)
戦士長ガイルから聞いた話では、黒の牙は数十人規模の集団。
ただのならず者ではなく、組織的に動いている危険な勢力らしい。
(今の俺の力なら、多少の盗賊相手には負けない……が、問題は数と戦術だな)
獣人たちは個々の戦闘力が高いものの、統率された軍ではない。
組織立った敵との戦闘には慣れていない可能性がある。
「蓮、少し話がある」
考え込んでいると、ガイルが声をかけてきた。
「どうした?」
「黒の牙の動きが活発になった原因が分かった。どうやら、奴らは外部の誰かと手を組んだらしい」
「……外部?」
「詳しくは分からねぇが、最近になって妙に精巧な武器を手に入れてるらしい。もともと黒の牙は野盗の集団だ。そんな連中がいきなり高品質な装備を揃えられるとは思えねぇ」
「……確かに妙だな」
盗賊が最新の武器を持つ場合、大抵は二つの理由が考えられる。
どこかの国や貴族が裏で支援している。
盗賊団の中に、異世界人のような特殊な存在がいる。
(どちらにしても、厄介なことになりそうだな……)
「まぁ、今のところは推測だ。だが、里を襲う気でいるのは確実だ。戦士たちを集め、迎撃の準備を進めている。お前も来てくれるか?」
「もちろんだ」
蓮は力強く頷いた。
翌朝、蓮は獣人の戦士たちと共に里の周囲を警戒していた。
ガイルを中心に約30名の戦士が配置され、見張りの強化が行われている。
「……来るぞ」
獣人の一人が低く唸るように言った。
蓮が目を凝らすと、森の向こうに黒い影が揺らめいているのが見えた。
――そして、次の瞬間。
「突撃しろォ!!!」
耳をつんざくような叫び声が響いた。
黒の牙が、里に向かって一斉に突撃を開始したのだ。
「全員、配置につけ!」
ガイルの指示で獣人の戦士たちが動き出す。
蓮は素早く前線に立ち、魔法を展開する。
「≪エアブレイド≫!」
鋭い風の刃が盗賊の一団を切り裂き、数人が吹き飛ばされる。
「チッ、魔法使いがいるのか……!」
盗賊の中から、フードを被った男が前に出てきた。
「ほう……お前が獣人の助っ人か?」
男はニヤリと笑い、蓮を値踏みするように見つめた。
「……お前は?」
「俺か? 俺は黒の牙の幹部――【シャム】だ」
シャムは黒い短剣を構えると、瞬間、蓮の目の前に姿を現した。
(速い!?)
蓮が回避しようとしたその瞬間――
「≪バニッシュステップ≫」
シャムの姿が消えた。
そして、次の瞬間――
「遅いぜ!」
蓮の背後から、鋭い短剣が迫ってきた。
「……甘いな」
蓮は瞬時に≪エアシールド≫を発動し、短剣の攻撃を防ぐ。
「おっと、やるじゃねぇか!」
シャムは素早く後方へ跳躍し、距離を取る。
(この男……普通の盗賊じゃない。あの動き、魔法かスキルか?)
蓮は警戒しながら、相手の出方を伺う。
「お前……異世界人だろ?」
シャムはニヤリと笑った。
「何で分かる?」
「ははっ、そりゃあな……俺も“そう”だからよ」
「……!」
蓮の目が見開かれる。
まさか、敵の中に異世界転移者がいるとは――。