第57話 闇術士ヴァレリアの罠
いつもお読みくださり、ありがとうございます。
「……試してみようか」
蓮はそう呟くと、即座に《空間圧縮》の魔法を発動させた。
「《グラビティ・フィールド》!」
再び重力を増加させ、ゴルザの動きを封じようとする。
「またそれか!」
ゴルザは豪快に笑いながら地面を踏み鳴らした。
ズシンッ!!
大地が震え、彼を中心に衝撃波が広がる。圧倒的な筋力で重力をものともしない。
「ならば!」
蓮は《フレイム・ブレード》を展開し、重力の効果が及ぶ範囲内で縦横無尽に剣閃を繰り出す。狙いは一点――ゴルザの関節部。
「チマチマと……」
しかし、ゴルザの防御力は桁違いだった。関節の隙間を狙った攻撃すら、彼の分厚い筋肉と鎧に阻まれる。
(……これはまずいな)
蓮はすぐさま後方へ跳躍し、次の手を考えようとした――が、その瞬間。
「ふふっ……」
妖艶な笑い声が響いた。
「っ!?」
蓮の背筋が凍る。
「お前が蓮……ね?」
黒い霧のような魔力が渦を巻きながら、ゆっくりとその姿を顕現させる。一人の女――**《闇術士ヴァレリア》**が、黒衣を翻して蓮の前に現れた。
「ちっ……厄介なのが来たか」
ヴァレリアは蠱惑的な微笑みを浮かべながら、長い黒髪を弄る。
「あなたの力……少しだけ見させてもらったけど、確かに厄介ね。でも……」
スッ……
彼女が指を軽く動かすと、周囲の空気が歪む。
「もう、あなたの戦いは終わりよ」
「……なに?」
次の瞬間――
闇が、蓮を呑み込んだ。
闇の中で
「っ……!」
蓮は反射的に飛び退いた。しかし、次に見えた光景に目を疑った。
――戦場が、消えている。
そこは真っ暗な空間だった。
「これは……幻術か?」
「ふふっ、これは《影牢》」
ヴァレリアの声が響く。
「あなたを影の中に閉じ込め、心を削る闇の世界よ」
「くそ……!」
蓮は即座に《光魔法》を展開する。
「《ホーリーライト》!」
神聖な光が辺りを照らし、闇を払おうとする。しかし――
「無駄よ?」
光は一瞬で掻き消された。
「っ!」
「残念だけど、この空間の中では光すら届かないの」
ヴァレリアの声が甘く響く。
「さあ、あなたの最も恐れるものを見せてあげるわ」
ズルリ……
闇が揺らぎ、何かが姿を成す。
蓮は思わず息を呑んだ。
目の前にいたのは――
「…………っ!!」
かつての仲間たちの骸だった。
蓮は言葉を失った。
「どう? 自分のせいで仲間が死ぬのは、怖いかしら?」
ヴァレリアの囁きが耳元に響く。
「やめろ……!」
蓮は目を逸らそうとする。しかし、幻覚はさらに鮮明になり、血の匂いすら感じられる。
「あなたの選択で、どれだけの人が死ぬのかしらね?」
ヴァレリアの笑い声が闇の中に溶ける。
蓮の胸に、冷たい恐怖が忍び寄る。
(……やめろ)
理性を奪われるな。
(……こんなもの、幻覚に過ぎない)
蓮は拳を握り、必死に自分を保つ。
だが――
「ねえ……このまま、闇に溺れてしまえば楽になれるわよ?」
闇が蓮の体を絡め取る。
――気を抜けば、本当に呑まれる。
「……チッ」
蓮は深く息を吐く。
(……冷静になれ。こんなもので、俺が負けるわけにはいかない)
彼は自らの魔力を研ぎ澄ます。
(そうだ……幻覚を打ち破るには、もっと強い魔力をぶつければいい)
蓮は静かに目を閉じると――
「《光輝剣・破邪》!」
――ズバァン!!
純白の光が剣から溢れ、闇の空間を切り裂いた。
「っ!?」
ヴァレリアの声が驚きに染まる。
「お前の幻覚なんかに……俺は屈しない!!」
蓮は剣を振り抜き、光の波動を広げる。
「そんな……!? あり得ない!!」
ヴァレリアの姿が掻き消え、闇が崩壊していく。
そして――
蓮は、現実へと帰還した。
「っ……はぁ、はぁ……」
蓮は息を整えながら、戦場に立っていた。
ヴァレリアは少し離れた場所に立ち、眉をひそめていた。
「私の影牢を破るなんて……面白いわね」
彼女の瞳が妖しく輝く。
「ふふ……これは、もっと楽しめそうだわ」
蓮は剣を構え直し、ヴァレリアを睨みつけた。
(今度こそ……決着をつける!)
前話の後書きのとおり、今話から「あらすじ」載せないことにします。
どんな話になるか最初に分かってしまうと、ワクワクしませんよね。
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