第51話 王都の決断
帝国軍の猛攻により、蓮たちの作戦は次第に追い詰められていく。
圧倒的な戦力差を前に王国軍の防衛線が崩れ始める中、王都ではある重大な決断が下されようとしていた――。
そしてその瞬間、蓮の中で休眠していたイリスが目覚め、戦場に新たな力が加わる!
風切峠の戦場は、帝国軍の猛攻によって次第に混沌としてきていた。
蓮の仕掛けた罠は確かに敵軍を削ぎ、混乱させた。しかし、それでも帝国軍の数は圧倒的に多い。
ガルバード将軍の巧みな指揮の下、帝国軍の魔術師部隊が火炎魔法を一斉に放ち、王国軍の防衛線を焼き払っていく。
「くっ……このままではまずい!」
蓮は咄嗟に《ウォーターヴェール》を展開し、燃え広がる火を打ち消していく。だが、それでも次々と放たれる火球の勢いは止まらない。
「魔術師部隊の火力が強すぎる……!」
シャムも剣を振るいながら周囲の王国兵を鼓舞するが、帝国の精鋭部隊が次々と前線を突破しようとしていた。
その時――蓮の体の中で、かすかな意識の覚醒を感じた。
(……これは……蓮? 何だ、この騒がしさは……?)
突如として蓮の胸元が発光し、そこから眩い光が解き放たれる。
「……!?」
蓮自身も何が起こったのかわからず、反射的に胸を押さえる。
すると、その光の中心から、ひとりの女性がゆっくりと姿を現した。
「……イリス!」
銀色の髪を風になびかせ、紅玉のような瞳を持つ女性――古代竜のイリスが、人間の姿で蓮の前に降り立った。
「ふぅ……やっと目が覚めた。まったく、久しぶりに深い眠りにつけたと思ったら、起きた瞬間これとはね……」
イリスは周囲を見渡し、状況を即座に把握する。
「なるほど……これはなかなかまずい状況みたいね」
「すまない、イリス。お前を休ませるつもりだったんだが――」
「ふん、気にしないでいいわ。むしろ、私の出番が来たということね」
イリスは蓮の横に並び、前方に殺到する帝国軍を睨みつける。
「さて……目覚めの準備運動には、ちょうどいい相手じゃない?」
そう言うや否や、イリスの体から圧倒的な魔力が噴き出した。
「な、何だ……!?」
帝国兵たちは、その場にいるだけで肌が焼けるような魔力の奔流に恐怖し、思わず後ずさる。
「リーナ! 私の魔力を利用しなさい!」
「え……!? で、でも――」
「遠慮しないで! どうせ眠りから覚めたばかりで、少し体を動かしたい気分だったのよ!」
イリスが片手を掲げると、空間に無数の魔法陣が浮かび上がった。
「行くわよ――《龍滅の焔》!」
瞬間、天空から巨大な炎の竜が舞い降り、帝国軍の前線を丸ごと飲み込む。
「ぐああああっ!!」
業火に包まれた帝国兵たちは、次々と悲鳴を上げながら焼き尽くされていく。
その凄まじい威力に、ガルバード将軍でさえも驚愕の表情を浮かべた。
「バカな……この魔法の威力は……!」
だが、イリスの攻撃はそれだけでは終わらない。
「蓮、あなたの魔法も重ねなさい!」
「……わかった!」
蓮は即座に《ウィンドカッター》を発動し、イリスの炎と組み合わせた。
燃え盛る竜炎が暴風と共に帝国軍の陣を切り裂き、戦場は一瞬にして修羅場と化す。
「う、うおおおお!!」
帝国兵たちは恐慌状態に陥り、前線が大きく崩れた。
「今だ! 王国軍、反撃開始!」
蓮の号令に応じ、王国軍の兵士たちが一斉に反撃を開始した。
イリスの登場によって戦況は逆転しつつあった。
その頃、王都では緊迫した空気が漂っていた。
王国の要人たちは王宮の戦略会議室に集まり、戦況を見守っていた。
「現在、風切峠で戦闘が続いております。しかし、帝国軍の攻撃は激しく、このままでは……」
重苦しい報告がなされる中、国王は沈黙を破った。
「……全軍を向かわせる」
「しかし、それでは王都の防衛が――!」
「王都が落ちる前に、戦を終わらせるのだ!」
国王の言葉に、室内は静まり返った。
「我々は王都を守るために戦うのではない。この国全体を守るために戦うのだ」
その覚悟を感じ取った将軍たちは、次々に頭を下げた。
「王のご決断に従います!」
王都防衛部隊の全兵力を風切峠へ派遣することが決まり、緊急命令が下される。
王都軍の出撃が決定した頃、戦場では蓮とイリスの連携が戦況を変えつつあった。
「さぁ、蓮! ここからは全力で行くわよ!」
「ああ、イリス! 俺たちで戦場を支配するぞ!」
イリスの覚醒によって、王国軍の士気は最高潮に達し、戦いは新たな局面を迎えようとしていた――。




