第50話 風切峠の激戦
王都を陥落させるべく進軍する帝国軍三万。
それに対し、蓮たち王国軍は風切峠へと敵を誘い込む策を講じた。
峠の厳しい風と魔法の罠を活用し、敵軍を迎え撃つ。
蓮の策は果たして帝国軍を翻弄できるのか――!?
王都から東へと続く街道を越えた先、風切峠には朝の霧が立ち込めていた。
「風が……強いな」
峠の入り口に立ったシャムが、風に舞うマントを押さえながら呟く。
「ここなら、敵の動きを封じることができる」
蓮は険しい岩肌を見上げ、地形を再確認する。風切峠は両側を切り立った崖に挟まれた細い道で、強風が常に吹き荒れる場所だった。ここなら大軍の機動力を削ぎ、戦いを有利に進められる。
「蓮、敵が近づいている」
リーナが王都側から駆け寄り、焦りを滲ませた声で報告する。
「どのくらいの距離だ?」
「もうすぐ見えるはずよ。数は……おそらく一万以上が先行しているわ」
蓮は軽く顎を撫でながら思考を巡らせる。
(帝国軍はまず先陣を送り込み、峠を突破するつもりか。だが、ここで時間を稼げば、後続の大軍は進軍が遅れる)
「全員、持ち場につけ!」
蓮が号令をかけると、王国軍の兵士たちが峠の各所へと散開していく。
リーナは魔法兵を率い、崖の上に配置された弓兵と共に迎撃の準備を整える。シャムは先陣の奇襲部隊を指揮し、蓮は自ら前線に立ち敵軍を迎え撃つ構えを取った。
「……あれが王国軍か」
帝国軍の指揮官、ガルバード将軍は峠の向こうに陣取る王国軍の布陣を見据えていた。
「大した数ではないな。たかが数千の軍勢で、我が軍を止められるとでも思っているのか?」
彼の隣には黒い甲冑を纏った副官が控えている。
「ですが、将軍。ここは峠。地形を利用されれば、正面突破は容易ではありません」
「ならば、まず先陣に突破させるまでだ。王国軍の力を削ぎながら、一気に叩き潰す」
ガルバードは手を振り上げた。
「全軍、前進! 王国軍を蹴散らし、峠を突破せよ!」
号令とともに、帝国兵たちが鬨の声を上げながら進軍を開始する。
「来たな……!」
峠の上から帝国軍の進軍を見つめ、蓮は静かに呟いた。
「リーナ、始めるぞ」
「ええ、準備はできてるわ!」
リーナの合図と同時に、魔法陣が発動した。
ゴゴゴ……ッ!!
地面が揺れ、突如として帝国軍の先陣部隊が爆発に巻き込まれる。
「ぐわぁぁぁっ!!」
爆炎が吹き荒れ、岩壁に跳ね返った衝撃波が帝国兵たちを吹き飛ばしていく。
「な、何だこれは!?」
帝国軍は突然の爆発に混乱し、隊列が乱れ始める。しかし、これはまだ序章に過ぎなかった。
「シャム、頼む!」
蓮の声に応じ、峠の岩陰に潜んでいたシャムの奇襲部隊が一斉に動き出す。
「……了解」
シャムは素早く地面を蹴り、敵陣へと突撃した。
「斬れ!」
王国軍の奇襲部隊が次々と帝国軍の混乱した兵士を討ち取っていく。
「くそっ……迎撃しろ!」
帝国軍の指揮官たちは慌てて態勢を立て直そうとするが、そこにリーナの魔法が降り注ぐ。
「風よ、刃となれ――《ウィンドブレード》!」
無数の風の刃が帝国兵たちを切り裂き、さらに兵の士気を削ぐ。
「ち、畜生……ッ!」
帝国兵たちは混乱しながらも反撃を試みるが、その度に罠が作動し、さらなる爆発や崖崩れが発生する。
蓮は剣を抜き、前線へと駆け出した。
「このまま押し切るぞ!」
「……甘いな」
戦場の後方で戦況を見つめていたガルバードは、冷笑を浮かべた。
「奴らの策は確かに厄介だ。だが、峠を守るということは、逃げ場をなくすということでもある」
彼は手を挙げると、後方の兵に命じた。
「魔術師部隊、発動しろ」
次の瞬間、帝国軍の後方から大量の火球が放たれた。
「くっ……!?」
蓮はとっさに防御魔法を展開するが、火球の威力は尋常ではなかった。
「火炎魔法による一斉攻撃か……!」
「奴らにこのまま好きにさせるな! 突撃しろ!!」
ガルバードの号令とともに、帝国の精鋭部隊が突入してくる。
「……くそ、こっちも防戦に回らないと!」
蓮たちは態勢を立て直し、再び戦場へと身を投じた――!




