第49話 新たな脅威
王都を襲撃した帝国軍を撃退した蓮たち。
しかし、それは帝国の総攻撃のほんの序章に過ぎなかった。
戦の炎が消えぬうちに、新たな敵が王都へと迫る――
王都の夜明けは、血と煙の匂いに包まれていた。
「……ひでぇな」
蓮は剣を鞘に収めながら、目の前に広がる光景を見渡した。
戦火の跡が残る大通り、崩れた建物、剣戟の痕が刻まれた石畳――昨夜の激戦が、ここにあったことを物語っている。
帝国軍の精鋭部隊『黒狼隊』を率いていたヴォルフは討ち取った。
しかし、まだ油断はできない。
「シャム、どうだった?」
「……地下水路の敵は全滅させた」
闇の中から姿を現したシャムは、いつもの無表情のままだが、その衣服は返り血に染まっていた。
それだけ激しい戦闘を繰り広げていたのだろう。
「王城の守りは?」
リーナが問うと、別の騎士が報告に駆け寄ってくる。
「陛下はご無事です! 王城の防衛部隊も健在ですが……被害は大きいです」
「……そうか」
蓮は僅かに眉を寄せ、静かに息を吐いた。
王都は守られた。だが、戦いは終わったわけではない。
むしろ、本当の戦いはこれからだった。
「帝国の動きは?」
「現在、王都から東の地点に帝国軍の本隊が展開しているとのことです」
報告に現れたのは王国軍の参謀官だった。
「昨夜の襲撃は、ただの陽動だった可能性が高いですね。王都内部に混乱を引き起こし、守りを崩すことが目的だったと考えられます」
「だろうな」
蓮は頷く。
(つまり、本命はこれから来る……か)
「敵軍の規模は?」
「現在確認されている限りでは、約三万です」
「三万……!?」
リーナが驚きの声を上げる。
「昨夜の襲撃部隊が約五百。その六十倍もの兵力が、今まさに王都を包囲しようとしていると?」
「そういうことだな」
蓮は歯を噛みしめる。
(帝国め……本気で王国を滅ぼす気か)
敵軍が王都へと迫る中、蓮は急ぎ王城へと向かい、国王と会談することにした。
「蓮殿……そなたの働きには感謝している」
王座の間で、国王が疲れた表情で語る。
「しかし、帝国の本隊が迫る今、王都が持ちこたえられるかどうか……」
「兵力差がありすぎる、ということですか?」
リーナが慎重に問いかけると、宰相が深く頷いた。
「その通りです。我が王国軍は、総勢で約一万五千。単純な数で言えば、敵の半分しかいません」
「しかも、昨夜の戦いで精鋭部隊も疲弊している。戦力はさらに劣るだろう」
シャムが淡々と付け加える。
「ならば、真正面から戦うのは得策ではないな」
蓮は地図を見つめながら言った。
「王都を防衛しつつ、どうにか敵軍を削る必要がある……」
「では、どうするおつもりか?」
国王が問う。
「帝国の狙いは、王都の速攻陥落。だからこそ、陽動や奇襲を仕掛けてでも短期決戦を狙っている」
蓮は地図の一点を指差した。
「王都の北東にある『風切峠』。ここを利用する」
「風切峠……?」
宰相が眉をひそめる。
「そこは、強い風が吹き荒れる難所。戦場には向かぬ場所ですが……?」
「だからこそ、狙い目なんだ」
蓮は説明を続けた。
「敵軍の先陣を誘い込み、峠で迎え撃つ。風を利用すれば、弓兵や魔法使いが圧倒的に有利になる」
「しかし、それだけでは敵の大軍を食い止めるのは難しいのでは?」
「だから、俺が『罠』を仕掛ける」
蓮は静かに微笑んだ。
王都防衛のための策が決まり、蓮たちは即座に準備に取り掛かった。
蓮とシャムは、夜のうちに風切峠へと向かい、そこに魔法の罠を設置した。
地面には爆発魔法を組み込んだ魔法陣を複数展開し、さらに魔力を込めた罠を仕掛ける。
「これで準備完了、か」
蓮は峠を見渡しながら呟いた。
「後は敵がかかるのを待つだけだな」
シャムが静かに頷く。
――そして、夜が明ける。
帝国軍が、ついに王都へと侵攻を開始した。
「来たぞ……!」
王城の城壁の上から、リーナが叫ぶ。
遥か彼方に見えるのは、無数の帝国兵たち。
まるで黒い波のように、大地を埋め尽くしていた。
「始めるぞ!」
蓮は剣を抜き、戦場へと走り出した――!
令和6年度の最終投稿となります。
明日から新年度となりますが、引き続きよろしくお願いします。




