第48話 王都の戦火
ついに帝国の本格的な襲撃が始まる。
蓮たちは王城と連携し、王都を守るために戦場へと向かう。
しかし、敵の戦力は予想以上に強大で――
王都の夜は、静かだった。
まるで、これから訪れる戦乱を悟ったかのように。
「……来るぞ」
蓮は、城壁の上から王都の外を見据えながら呟いた。
帝国のスパイを捕らえた直後、蓮たちはすぐさま王城へ報告に向かった。
国王や宰相、そして王国軍の幹部たちは、帝国の襲撃計画を聞くと即座に防衛体制を整えた。
現在、王城の周囲や城門には精鋭の騎士たちが配置され、各地の守備隊も厳戒態勢を敷いている。
王都の住民たちには避難命令が下され、今や市街は異様な静寂に包まれていた。
「どこから攻めてくると思う?」
隣で城壁にもたれるシャムが聞く。
「正面から、ってことはないだろうな」
蓮は闇の中に視線を向ける。
「奇襲が目的なら、地下か、市街のどこかに潜んでる可能性が高い」
「……それなら、俺が探ってみる」
シャムが短く言うと、その場から消えるように飛び降りた。
「まったく、相変わらず無茶するわね」
リーナが苦笑しながら、蓮に向き直る。
「蓮、私たちはどうする?」
「ここに留まってもいいが、どうせ戦場になる」
蓮は腰の剣を軽く叩いた。
「なら、こっちから仕掛ける方がいい」
そう言って、蓮は城壁を降りる。
それは、突如として始まった。
王都の西側、市街の一角から火の手が上がる。
「火事か……いや、違うな」
蓮は歯を食いしばる。
「連中、もう動いてやがる!」
「早いわね……!」
リーナがすぐに詠唱を始める。
「《水流召喚》!」
彼女の魔法によって、大量の水が放たれ、炎を抑え込む。
「蓮、向こう!」
リーナが指さした先で、黒装束の兵士たちが王国兵と交戦していた。
「帝国の特殊部隊……!」
蓮はすぐさま駆け出す。
「シャム、聞こえるか!?」
蓮は通信魔法を使い、シャムに呼びかける。
『聞こえる。今、市街地の地下水路で戦ってる。敵の数が多い……!』
「地下にも潜んでたのか……!」
蓮は状況を整理する。
(西側で放火し、混乱を誘う。その間に地下から王城へ侵入……そういう手か!)
「リーナ、王城の守りはどうなってる!?」
「城内には騎士団がいるけど、帝国が本気なら……!」
「間に合ううちに潰すぞ!」
蓮はそう言い、最前線へと駆け出した。
王都の大通りに出ると、そこには帝国兵たちが陣を張っていた。
「クソ、こんな数が……!」
蓮の目の前には、すでに50名以上の帝国兵が展開している。
「お前が"異世界人"か……」
その中から、一際異様な雰囲気を纏う男が現れる。
「貴様……!」
「帝国軍"黒狼隊"隊長、ヴォルフ。貴様らを討ち取るために来た」
ヴォルフは重厚な黒い鎧を纏い、鋭い眼光を蓮に向ける。
「異世界人……貴様らの存在は、この世界にとって"異物"に過ぎん」
「今さら説教か?」
蓮は剣を構える。
「言葉は不要だ。俺が証明してやる」
ヴォルフは巨大な戦斧を構え、一気に襲いかかってきた。
「っ……速い!」
ヴォルフの一撃を紙一重で避け、蓮は距離を取る。
(普通の人間じゃないな……!)
「お前の力、試させてもらうぞ!」
ヴォルフが再び斧を振るう。
「リーナ!」
蓮の呼びかけに応じ、リーナが魔法を放つ。
「《雷撃槍》!」
ヴォルフの動きを封じるための雷撃が降り注ぐが、彼はそれを難なく回避する。
「なるほど……魔法の使い手か」
ヴォルフはニヤリと笑うと、地面を強く踏みしめた。
「《覇気解放》!」
彼の身体が淡いオーラを纏い、その瞬間――
「ぐっ……!?」
蓮は圧倒的な威圧感に襲われ、動きを鈍らせる。
「この力、理解できるか?」
ヴォルフはそう言い、再び蓮に襲いかかる。
「……くそ、負けるわけにはいかねえ!」
蓮は一気に魔力を解放する。
「《魔力解放・全属性展開》!」
蓮の周囲に、炎・水・雷・風・土の魔力が渦巻く。
「なに……!?」
ヴォルフの表情が僅かに歪む。
「行くぞ……!」
蓮は全属性魔法を駆使し、一気にヴォルフへ攻め込む。
「《炎槍》!」
炎の槍がヴォルフを貫く――かに見えた瞬間、彼は紙一重で避けた。
しかし、その時にはすでに蓮は次の魔法を放っていた。
「《雷撃斬》!」
雷を纏った剣が、ヴォルフの鎧を砕く。
「ぐっ……!」
「終わりだ……!」
蓮は渾身の一撃を放ち、ヴォルフを吹き飛ばした。
「はぁ、はぁ……」
ヴォルフは倒れ、王都の戦いも終息へと向かっていた。
「勝った……のか?」
リーナが周囲を見渡す。
「いや、まだだ」
蓮は立ち上がる。
(帝国は、これで終わるはずがない……!)




