第46話 狙われた王都
帝国の刺客が王都に現れ、蓮とシャムを狙った襲撃は一時的に退けられた。しかし、それはただの始まりに過ぎなかった。王都に潜むさらなる脅威とは――
夜明けとともに、王都はいつもの賑わいを取り戻していた。
しかし、蓮たちにとって昨夜の襲撃は、まだ終わっていない問題だった。
「……帝国の刺客が王都にまで来ていたとはな」
蓮は宿の一室で腕を組みながら呟く。
「しかも、単なる暗殺者じゃなく、何かしらの"細工"がされていた」
シャムが隣でうなずいた。昨夜の戦いで倒した刺客たちは、生きた人間ではなく、何者かに操られた存在だった。
「リーナ、あいつらの正体について何か分かったか?」
リーナは疲れた表情を浮かべながら答える。
「調べてみたけど、やっぱりあれは"傀儡"よ。高度な魔術で操られた死体……つまり、"屍兵"の類ね」
「屍兵……?」
「そう。帝国が密かに研究していると噂される、"死者を戦わせる技術"よ。まだ実用化されているとは思ってなかったけど……昨夜の戦いで確信したわ」
シャムが不快そうに顔をしかめる。
「……つまり、帝国は死んだ人間を利用して戦わせてるってことかよ。気味が悪いな」
「ええ。でも、それだけじゃない」
リーナは真剣な眼差しで蓮を見つめる。
「昨夜現れた暗殺者……あの男だけは、間違いなく生きていた。つまり、帝国は"屍兵"だけじゃなく、相当な実力者も送り込んできたってこと」
「……だろうな」
蓮は昨夜の暗殺者の動きを思い返した。
あの男の剣技は尋常ではなかった。シャムやリーナの攻撃を軽々とかわし、確実に急所を狙っていた。
もし蓮が割って入らなければ、シャムはやられていたかもしれない。
「……問題は、帝国がこれからどう動くか、だな」
蓮がそう言った矢先――
「おい、蓮! 王都で妙な噂が流れてるぞ!」
シャムが慌てた様子で部屋に駆け込んできた。
「妙な噂?」
「『異世界人が王都に危機をもたらす』ってな」
蓮は表情を険しくする。
「……詳しく聞かせろ」
王都の広場では、すでに噂が広まっていた。
「最近、王都に異世界人がいるらしいぞ……」
「しかも、そいつらのせいで帝国が動き始めたって話だ」
「まさか戦争が起きるんじゃ……」
人々は不安そうな顔で話している。
「……手際が良すぎるな」
蓮は人混みを眺めながら呟いた。
「昨夜襲撃されたばかりなのに、もうこんな噂が流れてる……」
「明らかに誰かが意図的に広めてるよな」
シャムが険しい表情で言う。
「ええ。これは帝国の情報操作ね」
リーナが低い声で言った。
「帝国は異世界人の存在を危険視し、王都の人々を不安にさせることで、私たちを孤立させようとしているのよ」
「なるほどな……」
蓮は顎に手を当てて考え込む。
「このままだと、王都の人間が俺たちを敵視する可能性もあるな」
「それどころか、王都の中に帝国のスパイが潜んでいるかもしれないわ」
リーナの言葉に、シャムが驚いたように目を見開いた。
「スパイだと?」
「ええ。この噂の広まり方は異常よ。普通なら、もっと時間がかかるはず」
「……なら、まずは情報を整理しないといけないな」
蓮はゆっくりと息を吐いた。
「俺たちがどう動くべきか、王城に報告しよう」
王城に向かった蓮たちは、すぐに宰相と国王に謁見することになった。
「……昨夜の襲撃は報告を受けている」
宰相は険しい顔で言った。
「帝国が王都に刺客を送り込んできたこと自体、大きな問題だ。そして、その直後に広まった"異世界人危険論"……これが偶然ではないことも明らかだ」
「ええ。私たちは意図的な情報操作と考えています」
リーナが真剣な表情で言う。
国王は静かにうなずいた。
「ならば、迅速に対処しなければなるまい」
「……どうするつもりですか?」
蓮が尋ねると、国王は静かに答えた。
「まず、王都の警備を強化する。そして、帝国のスパイを洗い出す」
「スパイを?」
「うむ。王都にこれほど速く情報を広められたのならば、内部に協力者がいると考えるべきだ」
「確かに……」
蓮は考え込む。
(もし王都に帝国のスパイがいるなら、俺たちの動きは筒抜けになっている可能性がある)
「また、お前たちには"囮"になってもらう」
「囮?」
蓮が驚いて聞き返すと、国王は静かに説明した。
「帝国が貴様らを狙っているのは明白だ。ならば、あえて表立って行動し、奴らを誘き出すのだ」
「……なるほどな」
蓮は考える。
(確かに、こちらから動けば帝国の工作員をあぶり出せるかもしれない)
「分かりました。やりましょう」
蓮は頷いた。
「帝国が俺たちをどう利用しようとしているのか、その意図も探る必要がありますね」
国王は満足そうに頷いた。
「よかろう。では、王都を動かし、帝国の闇を暴くとしよう」
帝国の狙いとは――
王都に広まる噂、刺客の襲撃、そして帝国の影。
その全てが、蓮たちを取り巻く脅威の一端に過ぎなかった。
帝国の狙いとは何か?
そして、王都に潜む裏切り者とは――?




