第45話 帝国の暗殺者
王都に忍び寄る帝国の刺客。その狙いは異世界人である蓮とシャムだった。
影の中から迫る暗殺者との死闘。そして、彼らの背後にいる存在とは――
王都の夜は静寂に包まれていた。
しかし、その闇の中には確かな殺意が潜んでいた。
「……気配がする」
蓮は寝室の窓辺に立ち、静かに夜の空気を吸い込んだ。
昼間、シャムとリーナが王都の外れで帝国の手の者と交戦し、彼らが何かを企んでいることが分かったばかりだ。
その"計画"とやらが何なのか、まだ分からない。
だが――
「……敵が来るなら、迎え撃つだけだ」
蓮は静かに呟くと、腰に帯びた剣に手をかけた。
「シャム! 起きて!」
リーナの叫びが響いたのは、真夜中のことだった。
シャムが寝ぼけ眼をこすりながら飛び起きると、リーナはすでに杖を構え、警戒している。
「な、なんだよ、こんな時間に……」
「何者かが建物に侵入しているわ!」
リーナの言葉に、シャムの眠気は一瞬で吹き飛んだ。
彼はすぐに短剣を手に取り、壁に身を寄せながら気配を探る。
「……確かに、妙な動きがあるな」
彼がそう言った瞬間――
ガシャアアアン!!
窓が割れ、黒装束の男たちが数人飛び込んできた。
「クソッ! いきなりかよ!」
シャムは瞬時に後方へ跳び、間合いを取る。
男たちは無言のまま、一斉に剣を抜いた。
「……帝国の刺客ね」
リーナが低く呟く。
彼らは何も言わない。ただ、一撃で仕留めるような動きで襲いかかってくる。
「こっちもやるしかねえな……!」
シャムは短剣を構え、最初の暗殺者の動きを見極めた。
「フン!」
シャムは素早く回避しながら、暗殺者の腕を狙って短剣を突き出す。
鋭い金属音が響き、相手の剣が弾かれる。
「速いな……」
しかし、相手も一流の刺客だった。
一瞬で態勢を立て直し、シャムに鋭い蹴りを繰り出す。
「クッ……!」
シャムは腕で受けながらも後方に下がる。
「《ライトニング・バースト》!」
リーナの魔法が炸裂し、暗殺者たちの視界を奪う。
その隙にシャムが一人の喉元へ短剣を突き立てた。
「ぐっ……!」
男が崩れ落ちる。
だが――
「……これは、ただの刺客じゃねえ」
シャムは目の前の男を見下ろして違和感を覚えた。
黒装束の男の顔が、妙に硬直している。
「……こいつ、生きてねえぞ」
リーナも眉をひそめた。
よく見ると、倒した暗殺者たちの肌は異様に青白く、血の気がない。
「まるで、"操られている"みたい……」
リーナがそう言いかけたその時だった。
ドンッ!!
突然、床下から何かが爆ぜる音が響いた。
「これは……!」
シャムが振り向いた瞬間――
部屋の奥から、さらに一人の影が現れた。
「ようやくお出ましか……」
シャムは短剣を握り直す。
だが、リーナはその気配に寒気を覚えていた。
「……こいつは、さっきまでの連中とは違うわ」
確かに、今までの暗殺者たちは何かに操られたかのような動きだった。
だが、目の前の男は違う。
その動きには明確な意志があり、圧倒的な殺気が伴っていた。
「貴様らが、異世界人か」
低く響く声。
その言葉に、シャムの目つきが変わる。
「……やっぱり、狙いは俺たちか」
男は無言のまま剣を抜いた。
刃に淡く黒い魔力がまとわりついている。
「来るぞ……!」
その瞬間、男の姿がかき消えた。
「クソッ、速ぇ……!」
シャムはギリギリで相手の攻撃をかわしたが、その刃は頬をかすめ、浅く傷をつけた。
リーナがすかさず魔法を放つが――
「……無駄だ」
男は一瞬で回避し、間合いを詰める。
「《フレイム・バースト》!」
リーナの炎の魔法が炸裂する。
だが、男は魔法の隙間を縫うように動き、シャムに迫った。
「くそっ……!」
シャムは短剣で防御しながらも、少しずつ追い詰められる。
(ダメだ……こいつは今までの敵とは格が違う!)
その時――
「そこまでだ」
静かな声が響いた。
そして、男の背後に突如として現れた影。
「なっ……!?」
蓮が剣を振るうと、男は寸前で回避する。
「貴様……!」
「お前の狙いは俺たち異世界人だろ?」
蓮は剣を構えたまま言った。
「なら、正面から来いよ。影に隠れるのは性に合わない」
男は少しの間、沈黙した後――
「……ほう。貴様が"本命"か」
不気味な笑みを浮かべた。
「だが、今日はここまでだ」
そう言うや否や、男は煙玉を放ち、闇の中へと消え去った。
「……逃げられたか」
蓮は剣を収めながら呟いた。
「シャム、大丈夫か?」
「ああ、なんとかな……でも、ヤベェ奴だったぜ」
シャムは苦笑しながらも、冷や汗を拭う。
「帝国は本気で俺たちを狙っている……」
リーナが呟く。
蓮もそれを痛感していた。
帝国の影は、確実に迫っている。
そして、これは序章に過ぎないのだ――




