第44話 影の策略
帝国の動向を探るべく、蓮たちは王都に滞在しながら情報を集める。
だが、すでに帝国の手はこの国へと忍び寄っていた。
影の中で蠢く策謀とは? そして、蓮たちが直面する新たな脅威とは――
王都の空はどこまでも澄み渡り、平和そのものに見えた。
しかし、蓮の胸中には不穏な予感が渦巻いていた。
国王の決断により、帝国の動向を探る任務を負った蓮たちは、王都に滞在しながら情報を収集することになった。
「帝国がすでにこの国に手を伸ばしている可能性がある」――国王も宰相もそう考えており、蓮たちも慎重に動かざるを得なかった。
「さて……どこから手をつけるべきか」
蓮は王城の一室で腕を組みながら呟いた。
「情報収集なら、裏社会が一番早いんじゃないか?」シャムが提案する。
「それもありだけど、まずは王城内部で何か情報が掴めないか試してみるのも手ね」リーナが言う。
ライルは静かに考え込んでいたが、やがて口を開いた。
「王城内で帝国と繋がっている者がいる可能性もある。慎重に動くべきだ」
その可能性は、蓮も考えていた。帝国が異世界人を狙うために動いているのなら、この国の中に内通者がいてもおかしくはない。
「……じゃあ、手分けして情報を集めよう」
蓮たちはそれぞれの役割を決め、動き出した。
蓮は王城の兵士たちと交流を持ちながら、さりげなく情報を探っていた。
「最近、変わったことはないか?」
何気ない会話の流れでそう尋ねると、ある兵士がため息をつきながら答えた。
「実は、最近王城内の倉庫から物資が消える事件が相次いでるんだよ。しかも、兵士の一部が妙に落ち着かない様子でな」
「……それは、どういうことだ?」
「帝国と関わりがあるんじゃないかって噂もある。けど、証拠がないし、上の連中も騒ぎを大きくしたくないんだろうな」
兵士は肩をすくめた。
蓮は考え込んだ。
物資の消失、兵士たちの不穏な動き……これは偶然ではない。
帝国がすでにこの国の内部に入り込んでいる証拠かもしれない。
「これは、早めに調べる必要がありそうだな……」
一方、シャムとリーナは王都の裏社会に足を踏み入れていた。
王都には貴族や商人たちが表向きに経済を回しているが、その裏では闇取引が行われ、情報が飛び交っている。
そこに、帝国の影が潜んでいる可能性が高かった。
「おい、シャム。ここの連中、大丈夫なの?」
リーナは少し警戒した様子で、場末の酒場を見回す。
「こういう場所にこそ、帝国の情報が流れてくるんだよ」
シャムは自信ありげに言いながら、酒場のカウンターに向かった。
「この辺りの噂を聞きたいんだが、何か情報はないか?」
酒場の店主はシャムをじっと見つめた後、少し考えてから口を開いた。
「……最近、妙な動きをしてる連中がいるって話はあるな。王都の外れで、よくわからねえ荷物の受け渡しをしてるらしい」
「受け渡し……?」
「詳しくは知らねえが、どうも帝国の連中が関わってるって噂だ」
シャムはリーナと目を合わせた。
「行ってみるか?」
「ええ。行くしかないわね」
シャムとリーナは、王都の外れにある倉庫街へと向かった。
夜の帳が降りる頃、物音を殺しながら倉庫の影に身を潜める。
「……あれを見ろ」
シャムが指さした先には、黒装束の男たちがいた。
彼らは何かの箱を運んでいる。
「帝国の関係者……?」リーナが呟く。
「証拠を掴むぞ」
シャムが静かに近づこうとしたその時――
「誰だ!」
突然、警戒の声が響いた。
「チッ、見つかったか!」
男たちが剣を抜き、こちらへと向かってくる。
「仕方ない、戦うぞ!」
リーナが杖を構え、魔法の詠唱を始める。
「やるしかねえな……!」
シャムも短剣を抜き、戦闘態勢に入った。
戦いは激しく、シャムとリーナは相手を圧倒した。
しかし、最後の一人を倒した瞬間、男が苦しそうに笑った。
「……遅かったな」
「何……?」
「お前たちがここに手を取られている間に、"計画"はすでに動き出している」
シャムとリーナは嫌な予感を覚えた。
「……何を企んでいる?」
男は答えず、そのまま絶命した。
「……急いで戻るわよ!」
リーナが焦りの色を滲ませながら叫ぶ。
帝国の策略は、すでに動き始めていたのだ――




