第42話 帝国の影
帝国の動きが活発化する中、蓮たちは王都へ向かう。しかし、その道中で帝国の刺客が迫っていた。
ライルの「歪み」を巡る謎、そして帝国の新たな計画――蓮たちは追撃を振り切り、王へ報告することができるのか?
夜の帳が降りる頃、蓮たちは王都へ向けて馬を駆った。
「蓮、追手がいるわ」
リーナが気配を察知し、小声で警告する。
「……早かったな」
蓮は馬の速度を上げながら後ろを振り返る。街道の遠方に、松明の火が揺れながら接近してくるのが見えた。
「間違いねえ、帝国の奴らだ」
シャムが剣の柄に手をかける。
「どうする? 迎え撃つか?」
「いや、ここは王都に急ぐのが先決だ」
蓮は冷静に判断する。今は無用な戦闘を避け、一刻も早く王都へ情報を届けなければならない。
「なら、俺が足止めしよう」
ライルが口を開く。
「お前……!」
「俺の魔力なら、奇襲には向いてる。蓮たちが逃げる時間を稼ぐくらいはできるはずだ」
「ダメだ」
蓮は即座に却下した。
「今はバラバラに動くのは危険すぎる。帝国の狙いがライルだけとは限らない」
「そうよ。帝国は私たち全員を消すつもりかもしれないわ」リーナも同意する。
「……仕方ないな」
ライルは小さく息を吐いた。
「なら、どうする?」
「森へ入る」
蓮は視線を前方へ向ける。
「王都への街道を使うと追いつかれる。森を抜けて迂回するぞ」
「……いい判断だな」
シャムが微笑む。
「なら、行こうぜ」
彼らは馬の進路を変え、暗い森の中へと入っていった。
「奴ら、森へ入ったか」
遠方からその様子を確認していた帝国の追跡部隊の隊長が呟く。
「どうします、隊長?」
「迂闊に突っ込むのは危険だな。だが――」
隊長は指を鳴らすと、部下の一人が頷いた。
「狩りを始めるぞ。魔導師部隊を前に出せ」
「はっ!」
すぐさま帝国の魔導師たちが前に出て、呪文を唱え始めた。
「"索敵の目"、発動」
宙に淡い光の球が浮かび、森の奥へと飛んでいく。
「見つけ次第、捕縛しろ。殺すな――"生きたまま"連れ帰るのが命令だ」
隊長の冷たい声が響く。
「……見つかったか」
蓮たちは森の中を進んでいたが、突如として上空に浮かぶ魔法の光に気づいた。
「帝国の索敵魔法か……!」
シャムが舌打ちする。
「こうなったら、もう逃げられねえな」
「仕方ない、迎え撃つぞ」
蓮は剣を抜く。
直後、木々の間から黒い影が現れた。
「捕縛せよ!」
帝国の兵士たちが一斉に襲いかかってくる。
「くっ!」
リーナが後方で防御魔法を展開する。
「"聖盾"!」
光の壁が発生し、敵の矢を防いだ。
「行くぞ!」
シャムが飛び込み、剣を振るう。
「"烈風斬"!」
風を伴った一撃が兵士を吹き飛ばす。
蓮も負けじと前に出る。
「"炎の刃"!」
剣が赤く輝き、帝国の兵を斬り伏せた。
しかし、次の瞬間――
「"影縛り"」
突如として黒い鎖が地面から現れ、蓮たちの足元を絡め取った。
「何……!?」
「捕らえたぞ」
闇の中から現れたのは、黒衣の魔導師だった。
「帝国の……刺客か!」
「その通りだ、異世界人」
黒衣の魔導師が笑みを浮かべる。
「お前たちは生きたまま連れて帰る。……もっとも、意識がある状態とは限らんがな」
魔導師が手を掲げ、黒い魔力が渦を巻く。
「やらせるかよ!」
シャムが剣を振るうが、黒い壁に阻まれる。
「"奈落の呪縛"……眠れ」
魔導師の詠唱が完成し、蓮たちに黒い霧が襲いかかった。
「くそっ……!」蓮は抵抗するが、体が重くなっていく。
「……蓮、シャム……」リーナの声が遠のく。
意識が暗闇に沈みかけた、その瞬間――
「吹き飛べ」
轟音とともに、魔導師の体が吹き飛ばされた。
「何……!?」
「……ライル!?」
そこに立っていたのは、異質な魔力を纏ったライルだった。
「お前の"歪み"……まさか……!」
魔導師が驚愕する。
「俺は帝国の奴隷にはならん……"歪み"の力、見せてやる」
ライルの手から奔流のような魔力が放たれる。
「"召喚の歪み"、開放」
黒い魔法陣が浮かび上がり、周囲の魔力を吸い込む。
「な、なんだこれは……!?」
魔導師が恐怖に染まる。
「消えろ」
ライルが手をかざすと、黒衣の魔導師は断末魔をあげながら消滅した。
「……ふぅ」
ライルが息をつく。
「お前……その力……」
蓮が呆然とする。
「まだ説明が必要みたいだな」
ライルは微笑みながら言った。
戦いを終えた蓮たちは、改めて王都へ向かった。
「帝国は本気で俺たちを狙っている」
蓮は拳を握る。
「王にすぐ報告しなければ」
「そうだな」
シャムが頷く。
「これ以上、奴らの好きにはさせねえ」
「帝国の計画……止めないといけないわね」
リーナも決意を固めた。
そして、彼らは王都へと急ぐ――




