第41話 召喚の歪み
帝国の騎士団長ジークが撤退し、戦いは一時的に終結した。しかし、ライルの異質な魔力、そして「召喚の歪み」という言葉が残した謎が、蓮たちを新たな問題へと導く。
王都へ向かう道中、ライルは自身の過去を語り始める。異世界召喚の研究に関わった彼が知る、帝国の恐るべき計画とは――?
「ライル、お前……今の魔法、一体……?」
戦いが終わり、森の奥深くへと足を進める中、蓮は改めてライルに問いかけた。
「……俺の魔力は、普通のものとは違う」
ライルは疲れ切った表情で小さく笑い、地面に座り込む。
「少し休ませてくれ……話すべきことは、たくさんあるからな」
彼の言葉に頷いた蓮たちは、近くの開けた場所に陣を敷いた。シャムが警戒し、リーナが回復魔法を施す中、ライルは静かに語り始めた。
「……俺は元々、帝国の研究機関で"召喚術"の研究をしていた」
「召喚術の研究?」
蓮は眉をひそめる。シャムやリーナも驚いた表情を浮かべた。
「ああ、異世界召喚は、この世界の魔法の中でも特異なものでな。通常の魔術理論では説明できない部分が多い……だからこそ、帝国はその力を解明しようとしていたんだ」
ライルは手を握りしめ、悔しそうに続ける。
「俺も最初は、ただ魔法を学びたいだけだった。だけど、ある日気づいたんだ……帝国の本当の目的は、"召喚者を兵器として利用すること"だってな」
「……」
蓮は無言でライルを見つめた。
「帝国は召喚者に強制的に戦わせる方法を探していた。召喚された者が拒めないよう、魂に干渉する魔術や、特殊な拘束魔法の研究を進めていたんだ」
「魂に……干渉?」
リーナが青ざめた顔で呟く。
「そうだ。魂そのものに刻印を施し、帝国の命令に逆らえなくする――そんな恐ろしい研究が進められていたんだ」
「……おいおい、それってつまり"意思を奪う"ってことかよ」
シャムが険しい顔で言う。
「まさにその通りだ。俺は……その計画に耐えられなくなって、逃げ出した。だが……"歪み"は俺の身体に残ったままだった」
ライルは自身の手のひらを見つめる。その手からは、先ほどジークを退けたときと同じ異質な魔力が、微かに滲み出ていた。
「……異世界召喚は、本来、世界の法則に反する行為だ。そのせいで、召喚された者には"魔力の異常"が発生することがある」
「それが、お前の"歪み"ってやつか?」
「ああ。俺は召喚の研究に関わるうちに、異世界の魔力を取り込んでしまった。それによって、自分の魔力が不安定になり、通常の魔法とは異なる力を発現するようになったんだ」
ライルの言葉に、蓮はゆっくりと息を吐いた。
「……召喚者が利用されるだけでなく、その力まで歪められるなんてな」
「帝国は、召喚術をさらに発展させようとしている。俺が逃げた後も、研究は続いているはずだ。そして……おそらく、"新たな召喚"が行われた可能性がある」
「新たな召喚……?」
蓮は目を細める。
「……つまり、俺以外の異世界人が、また召喚されたかもしれないってことか」
「王都へ急ぐぞ」
蓮はそう言い、立ち上がった。
「帝国の動きが活発になっているなら、一刻も早く王へ報告しなければならない」
「賛成だな」
シャムも同意し、リーナも頷く。
「でも、王都までの道中、また帝国の追手が来るかもしれないわね……」
「その可能性は高い。だが、もう逃げるだけじゃダメだ」
蓮の言葉に、ライルは微笑を浮かべた。
「……お前、いい目をするようになったな」
「俺はこの世界で生きると決めたからな。もう逃げ腰じゃいられない」
蓮は剣を握りしめた。
「行くぞ――帝国の企みを阻止するために」
彼らが王都へ向けて出発したその夜。
帝国の暗部にて、一人の魔導師が報告を行っていた。
「ジーク様……例の"歪み"を持つ者が、蓮と接触しました」
ジークは無言で報告を聞き、静かに目を閉じる。
「……ライルのことか」
「はい。しかし、彼はもはや帝国に従わない者となりました」
「知っている」
ジークはゆっくりと立ち上がり、剣を手に取る。
「帝国の意志に逆らう者は、全て排除する……それが我々の役目だ」
冷徹な声が、闇の中に響く。
「準備を進めろ。次は、確実に"仕留める"」




