第40話 帝国の追手
ライルを追って現れた帝国の騎士団長ジーク。その目的は、ライルの捕縛、そして蓮の身柄の確保だった。
「力づくで連れて行くまでだ」――そう告げたジークは、帝国の精鋭たちを率いて蓮たちへと襲い掛かる。
蓮たちは迎え撃つが、ジークの実力は確かだった。やがて戦況が動き出す中、ライルの隠された力が明らかになる――。
「ならば――力づくで連れて行くまでだ」
ジークの冷徹な宣言とともに、帝国の騎士たちが一斉に動いた。
「くっ……!」
ライルが後退しながら魔法の詠唱を始める。だが、彼の身体は疲弊しており、すぐに呪文を唱えられる状態ではない。
「シャム! リーナ!」
蓮が仲間たちに呼びかけると、シャムは剣を抜き、リーナは魔法の詠唱に入った。
「……やるしかねぇな」
「ええ、あの数を正面から受けるのは得策じゃない。うまく立ち回るわよ」
帝国の騎士たちは十数名。全員が精鋭であり、黒い鎧に身を包んでいる。その中でもひときわ目立つジークは、ただ一人、剣を鞘から抜かずに立っていた。
「……どうした? かかってこないのか?」
蓮が挑発するように言うと、ジークは薄く笑った。
「部下たちがどれほどのものか、試させてもらうさ。貴様らがどの程度の力かもな」
「舐めやがって……!」
シャムが先陣を切り、帝国の騎士たちへと斬り込んだ。鋭い剣の軌跡が闇を裂き、一人目の騎士の防御を打ち砕く。
「ぐっ……!」
剣と剣がぶつかり合い、火花が散る。シャムはすぐさま体勢を整え、次の敵へと向かった。
「《ファイアランス》!」
リーナの魔法が炸裂し、炎の槍が騎士たちを貫こうとする。だが――
「《マジックバリア》!」
騎士の一人が詠唱し、光の障壁を展開した。
「防がれた……!?」
「さすが帝国の騎士団……魔法の使い手もいるってわけか」
蓮は舌打ちしながら、剣を振るって敵を迎え撃つ。
戦闘は激化し、蓮たちも善戦していたが、相手は精鋭揃い。消耗戦となれば分が悪い。
「そろそろ私も加わろうか」
そう言ったジークが、一歩前へ踏み出した瞬間――
「――ッ!?」
蓮の直感が警鐘を鳴らした。
ジークが剣を抜いた瞬間、圧倒的な気迫が周囲に広がる。
「まずは、お前から試してやろうか」
蓮の前に立つと、ジークは迷いなく剣を振るった。
「くっ……!」
蓮が剣で受け止めるが、その衝撃は想像以上だった。足元が抉れ、地面に深い亀裂が走る。
「なんて馬鹿力だ……!」
ジークの剣撃は重く、速い。しかも、一撃ごとに無駄がない。
「少しはやるな。だが、貴様では私には勝てん」
ジークは淡々とした表情で次々と斬撃を繰り出してくる。蓮はなんとか捌いていたが、確実に追い詰められていく。
「蓮!」
リーナが援護しようと魔法を放つが、ジークは軽く回避すると、まるで意に介さなかったかのように蓮を見据えた。
「終わりだ」
鋭い剣閃が蓮を襲う。
その瞬間――
「――ッ! させるかよ!!」
ライルが叫び、両手を突き出した。
「《アークライト・バースト》!!」
強烈な閃光が炸裂し、ジークの剣の軌道がわずかに逸れる。
「……なに?」
ジークが僅かに目を細める。
「お前……その魔力は……」
蓮も驚きの表情を浮かべた。ライルの身体からは、通常の魔術師とは異なる特別な魔力が放たれていた。
「俺は……ただの魔術師じゃない」
ライルは荒い息をつきながら、なおも魔力を放出する。
「……異世界召喚の研究に関わったせいで、俺自身の魔力も"歪み"を持つようになった……!」
ジークが剣を構え直す。
「ほう……興味深い。ならば、貴様も捕らえさせてもらおう」
しかし――
「蓮、今だ!」
ライルが叫ぶと、蓮は即座に理解し、力を込めて剣を振り抜いた。
「《グランドスラッシュ》!!」
大地を裂く一撃がジークへと襲い掛かる。
「……チッ」
ジークは瞬時に身を翻し、直撃を回避する。
「ここは……引くぞ」
彼は蓮たちを見据えながらも、騎士団へと撤退の命令を下した。
「今日はこの程度にしておこう。だが……次に会うときは、貴様らを確実に仕留める」
そう言い残し、ジークは騎士たちとともに森の奥へと姿を消した。
「……ふぅ」
ライルがその場に座り込み、深く息を吐く。
「助かったよ、ライル」
蓮が礼を言うと、ライルは苦笑しながら頷いた。
「しかし……ジーク、か。あいつは相当に手強いな」
シャムも額の汗を拭いながら、険しい表情を浮かべる。
「それに、帝国の動きがますます怪しくなってきたな」
蓮は拳を握りしめる。
「……召喚の異変、そして帝国の企み。これは早めに王都へ報告しなければならない」
戦いは終わった。しかし、新たな脅威がすぐそこに迫っていることを、彼らは実感していた――。




