第35話 盟約の証
白銀の古代竜・イリスが蓮たちの仲間となることを決意した。だが、彼女は「盟約」を交わすことで、正式に蓮の守護者となるという。
それは、ただの誓いではなく、魂をも結ぶ契約――。
その儀式のため、蓮はイリスの真意に向き合うことになる。
「盟約、か……」
イリスの言葉を受け、蓮は静かに呟いた。
目の前の白銀の髪を持つ美しい少女――いや、千年以上を生きた古代竜が、真剣な瞳でこちらを見据えている。
「……それって、具体的にはどういうことなんだ?」
イリスは微笑し、わずかに顎を上げた。
「簡単なことだ。私はお前の守護者となり、お前が歩む道を共にする。その代わり、お前は私を受け入れ、我が存在を保証する」
「受け入れる、ね……」
蓮は言葉を選びながら、彼女の真意を探った。
「それって、契約とか誓約のようなものか?」
「そうだ。だが、普通の契約とは異なる。これは"魂の盟約"――私たちの魔力と存在を繋ぎ、お互いを認め合う証となる」
「魂の盟約……」
蓮がその言葉を反芻していると、横で話を聞いていたシャムが口を挟んだ。
「待て、魂を繋ぐって、そんな簡単なことじゃないだろう? 何かリスクがあるんじゃないのか?」
イリスは静かに頷いた。
「もちろんだ。もし盟約を交わした者のどちらかが死ねば、もう片方も無傷では済まぬ」
「……っ!」
リーナが息を呑む。
「つまり、蓮が死ねば、イリスもただでは済まないってこと?」
「ああ。もっとも、私は竜だ。お前たちよりはるかに強靭な肉体と魔力を持つ。だが、それでも繋がりを持つということは、一定の影響を受けることになる」
イリスは淡々と語ったが、その瞳には確かな覚悟が宿っていた。
「……お前は、それでもいいのか?」
蓮はまっすぐに彼女の目を見た。
イリスは微笑し、ゆっくりと頷いた。
「私はお前に興味を持った。そして、共に歩む価値があると判断した。ならば、迷う理由はない」
「……そうか」
蓮は少し考え、息を吐いた。
「なら、俺も受け入れるよ。イリス、俺と盟約を結ぼう」
その言葉に、イリスは満足げに微笑んだ。
「盟約の儀式は、ここで行う」
イリスはそう言いながら、遺跡の中央へと向かった。
そこには、古びた魔法陣が刻まれている石碑があった。
「この地は、かつて私が封印された場所……そして、かつて盟約を交わした者がいた場所でもある」
「盟約を交わした者……?」
蓮が尋ねると、イリスはわずかに視線を落とした。
「もう千年以上前の話だがな。その者は、私を"対等な仲間"として迎えた……」
「……そうか」
蓮はそれ以上は聞かず、静かに魔法陣の中心に立った。
イリスも向かい合うように立ち、両手を広げた。
「では、始めるぞ」
その瞬間――
魔法陣が淡い光を放ち、空間が歪んだ。
蓮の体が軽くなり、意識がどこか遠くへ引き込まれるような感覚が走る。
(これは……)
意識が霞み、気づくと蓮はどこか別の空間に立っていた。
周囲は真っ白な世界。
そこに、イリスがいた。
彼女の姿は変わらず美しいが、どこか神聖な雰囲気をまとっている。
「ここは?」
「魂の境界――お前と私が繋がるための場所だ」
イリスは手を差し出した。
「この手を取れ。そうすれば、私たちは正式に繋がる」
蓮は一瞬だけ躊躇した。
だが、すぐに覚悟を決め、彼女の手を握った。
その瞬間――
眩い光が周囲を包み込み、蓮の体に熱が流れ込んでくる。
同時に、イリスの存在が、自分の中に深く刻まれるのを感じた。
(これは……)
言葉では説明できない。
だが、確かに"繋がった"のだと理解できた。
光が収まると、蓮は元の世界に戻っていた。
「……終わったのか?」
自分の手を見ると、手の甲に銀色の紋章が浮かんでいる。
「それが盟約の証だ。私とお前の魂が繋がった証でもある」
イリスも同じ紋章を手の甲に宿していた。
「ふぅ……なんだか、すごい体験だったな」
蓮が息を整えていると、シャムが呆れたように言った。
「お前、すごいことをさらっと受け入れすぎだろ……」
「まぁ、そうかもな」
蓮は苦笑した。
リーナは少し考え込んだ後、静かに微笑んだ。
「でも、これでまた、一歩前へ進めた気がする」
「……ああ、そうだな」
蓮は拳を握りしめ、改めて決意を固めた。
「これからもよろしくな、イリス」
「ふっ、当然だ。お前が歩む道、私も共に行こう」
こうして――
蓮とイリスは、正式な仲間となった。
それは、ただの契約ではない。
互いの魂を結びつけた、真の盟約だった。
そして、この絆が、これからの戦いにおいて大きな力となることを、蓮はまだ知らなかった。




