第34話 竜の試練
白銀の古代竜・イリスは、自らを仲間とする資格があるかどうかを確かめるため、蓮たちに試練を課す。圧倒的な魔力を誇る彼女に対し、蓮たちは力を尽くして挑むが、戦いの中でイリスの本当の目的が明らかになり――。
巨大な白銀の翼が広がり、空を切り裂く風が遺跡の中心に渦巻く。
蓮たちは目の前にそびえ立つ存在を見上げた。
古代竜――イリス。
その姿は、まさに神話の中の存在だった。全身を覆う白銀の鱗は、まるで月の光を映し込んだかのように輝き、瞳は深紅に燃え上がる。
「さあ、始めるぞ」
彼女の声が響くと同時に、空気が震え、魔力が奔流となって広がった。
「リーナ、シャム、距離を取れ! 俺が先陣を切る!」
蓮は即座に指示を飛ばし、足元に魔力を集中させる。
「《風翔》!」
魔法の力で身体を浮かせ、一気にイリスへと接近する。
だが――
ゴウッ!!
イリスの翼がわずかに動いただけで、暴風が発生し、蓮の体が押し戻された。
「ぐっ……!?」
重力を無視するような力が全身を襲う。まるで嵐の中に放り込まれたようだった。
「舐めるなよ!」
蓮はすかさず魔法を発動する。
「《炎槍》!」
空中で身体をひねりながら、強大な火炎の槍を生み出し、イリスへと放つ。
だが――
バチンッ!
火炎の槍はイリスの鱗に触れた瞬間、掻き消された。
「無駄だ。私の鱗は、並の魔法では傷つかん」
イリスが告げるや否や、次の攻撃が飛んでくる。
「《竜爪撃》!」
竜の前脚が振り下ろされ、大地が裂ける。
「まずい!」
蓮は《風翔》でギリギリ回避するも、衝撃波が身体を打ち抜く。
「くそっ……!」
「援護します!」
リーナが杖を構え、詠唱を始める。
「《聖なる雷槍》!」
神聖属性の雷がイリスへと走る。
しかし――
バリバリバリッ!!
雷撃はイリスの周囲で弾かれ、そのまま空へと散った。
「ふむ、なかなかやるな」
イリスは微笑むように言いながら、今度は口を開いた。
「ならば、これはどうだ」
その瞬間――
ゴォォォォォッ!!
真紅の炎が彼女の口から放たれ、蓮たちへと迫る。
「しまっ……!」
瞬時に《水壁》を発動するが、炎の圧力が想像以上で、蓮は吹き飛ばされた。
「ぐっ……くそ、やばいな……」
立ち上がると、シャムが駆け寄ってきた。
「蓮、大丈夫か!? こっちも防戦一方だ!」
「分かってる……でも、諦めるつもりはない」
蓮は再び剣を構え、冷静に戦況を分析する。
イリスの鱗は強固で、並の魔法や物理攻撃は通じない。
だが、彼女が「試している」と言った以上、単なる力比べではないはずだ。
蓮は深呼吸し、魔力を込めた。
「なら、賭けてみるか……」
全身に魔力を集中し、彼は呟いた。
「《全属性融合魔法・破邪閃光》!」
白銀の閃光が蓮の剣を包み込む。
「なに?」
イリスの瞳が驚きに揺れる。
「うおおおおお!!」
蓮はそのまま、彼女の巨大な前脚へと飛び込み――
ズバァァァン!!
一閃。
光の刃が鱗を貫き、イリスの体を揺るがした。
「くっ……!」
イリスが僅かに後退する。
――通じた!
「どうやら、お前は……本当に異質な存在のようだな」
イリスは再び人の姿に戻り、微笑んだ。
「試練は終わりだ。お前たちには、私と共に歩む資格がある」
蓮たちは安堵の息をついた。
「……つまり、俺たちの仲間になってくれるのか?」
「その通りだ。ただし――」
イリスは蓮の目を真っ直ぐに見つめた。
「私はただの従者にはならぬ。お前の守護者として、共に歩むことを誓おう」
彼女の言葉に、蓮は静かに頷いた。
「歓迎するよ、イリス」
こうして――
古代竜・イリスは、蓮の仲間となった。




