第33話 古代竜との対峙
封印が解かれ、白銀の髪を持つ古代竜が目覚めた。彼女は蓮たちを見下ろしながら、自らの過去を語る。しかし、その話の中で、彼女の力が世界を滅ぼしかけた理由が明らかになり――蓮たちは彼女と向き合う決断を迫られる。
遺跡の中心に立つ、白銀の髪と深紅の瞳を持つ女性――いや、彼女はれっきとした竜だった。
長い時を経て封印から解放されたその存在は、蓮たちを見下ろしながら、ゆっくりと視線を巡らせる。
「……久しいな、この空気。この魔素……今の時代は、随分と変わったようだな」
彼女の声は穏やかだったが、その響きには計り知れない威厳が宿っていた。
「あなたが……封印されていた古代竜か」
蓮は剣を下ろしながら、慎重に言葉を選ぶ。敵意を見せるべき相手ではないが、簡単に信用できる存在でもない。
「そうだ。私の名はイリス――かつて、この地を支配していた竜族の長。そして……人間に封印された者だ」
「……支配していた?」
その言葉に、シャムとリーナが身構える。
「誤解しないでくれ。我々竜は、人間と敵対していたわけではない。しかし、ある時――人間は恐れを抱いたのだ。我々の力が、彼らの文明を滅ぼしうると……」
イリスはわずかに瞳を伏せ、過去を思い返すように言葉を続ける。
「結果、人間の魔術師たちは禁断の術式を用い、私をこの地に封じた。そして、彼らはこう言い残した――『お前が目覚める時、この世界は再び破滅へと向かう』と」
「そんな……まるで、あなたが災厄そのものみたいな言い方だな」
蓮が驚いたように呟くと、イリスは微かに笑った。
「ある意味では、彼らの予想は正しかったのかもしれない。なぜなら……私が存在するだけで、この世界の均衡は崩れるのだから」
「均衡が崩れる?」
「そうだ。竜とは、膨大な魔素を内に宿す存在。私がここに封じられたことで、この土地の魔素は極端に抑制されていた。だが、封印が解かれた今、魔素の流れが元に戻りつつある……それが『魔の森の拡張』の正体だ」
その言葉に、蓮たちは息を呑む。
「じゃあ、魔の森が広がっていたのは……あなたの封印が弱まったせい?」
リーナが問いかけると、イリスは静かに頷いた。
「その通り。だが、これは私の意思ではない。自然の理にすぎぬ。長い間閉じ込められていた力が、ようやく解放されようとしているだけだ」
「じゃあ、封印を解いた俺たちは……世界を危機に晒したことになるのか?」
蓮の言葉に、イリスはじっと彼を見つめた。その深紅の瞳には、どこか慈しみのような感情が宿っているようにも見えた。
「お前たちの行為が正しかったかどうかは、これから決まる。だが、私は確信している……お前は、過去の人間たちとは違う」
「……どういう意味だ?」
「お前は、私を恐れていない。対話しようとしている。それだけで、十分に異端だ」
イリスの言葉は、どこか嬉しそうだった。しかし、その表情はすぐに険しくなる。
「だが、それだけでは足りぬ。私は試さねばならない……お前が、本当に私と向き合う資格があるのかを」
次の瞬間――イリスの周囲に、圧倒的な魔力が渦巻き始めた。
「ちょっと待て! まさか、力比べをするつもりか?」
「当然だ。竜は本来、契約などしない。だが、お前が私を『仲間』としたいのなら……私を屈服させてみせよ」
「……なるほど、そういう流れかよ」
蓮は苦笑しながら剣を構える。
「やるしかないみたいね……」
リーナが魔力を込め、シャムも短剣を構え直す。
「安心しろ、お前たちを滅ぼすつもりはない。だが、手加減はしないぞ」
イリスの言葉と同時に、彼女の体が輝き始める。
次の瞬間――彼女は竜の姿へと変貌した。
巨大な白銀の翼が広がり、彼女の身体を覆う鱗が月光を反射する。圧倒的な威圧感が辺りを支配し、蓮たちの呼吸すら重くなる。
「さあ、見せてみよ。お前が、この力と渡り合えるかどうかを!」
そして――激闘の幕が開ける。




