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第3話  獣人の隠れ里と試練

銀狼の獣人の少年に導かれ、蓮は獣人たちの隠れ里へと足を踏み入れる。しかし、人間を敵視する彼らの信頼を得るのは容易ではなかった。彼を待ち受けるのは、獣人の長老による試練――果たして蓮は認められ、生き延びることができるのか。洞窟の奥は思ったよりも広く、湿った空気と土の香りが鼻をついた。蓮は銀狼の少年の後を追いながら、警戒を解かないようにした。

「……俺の名前はガルド。お前は?」


少年が前を歩きながら、短く問いかけてくる。


「天城蓮。好きに呼んでくれ」


「レン……変な名前だな」


「お前の名前だって日本人からしたら珍しいけどな」


「ニホンジン……?」


ガルドは首をかしげたが、それ以上は聞かずに進んでいく。


しばらくすると、森の奥にぽっかりと開けた空間が現れた。そこには十数軒の木造の家が並び、中央には大きな焚き火が燃えている。


獣人の里だった。


しかし、蓮が足を踏み入れた途端――


「人間だ!?」


「なぜこんなところに……!」


周囲にいた獣人たちが一斉に蓮を睨みつける。


一瞬で敵意に満ちた視線が突き刺さるのを感じ、蓮は思わず身構えた。


「待て!」


ガルドが鋭い声を上げた。


「こいつは敵じゃない! 俺が連れてきた!」


「ガルド、お前……!」


「人間は信用できない!」


「あの騎士どもとグルじゃないのか!?」


獣人たちは一歩も引かず、蓮を敵視し続ける。


(……なぜ、こんなにも人間に敵意を向けるのか……)


この世界では、獣人はしばしば奴隷として扱われ、迫害される存在だった。彼らの警戒心は、長年の苦しみから生まれたものであることを、蓮は知らなかった。


「レン」


ガルドが蓮を見つめる。


「俺の親父――長老のところに行くぞ。そこでお前のことを説明する」


「長老?」


「ああ、この村の長だ。人間のことを嫌ってるが……話せば分かるかもしれない」


蓮は静かに頷き、ガルドの後をついていった。



長老の住まいは、村の中央にある一際大きな家だった。


中に入ると、白髪の狼獣人が静かに座っていた。年老いてはいるが、その鋭い瞳には衰えを感じさせない。


「……ガルド、お前が連れてきたという人間はこいつか?」


低く、落ち着いた声だった。


「そうだ、親父。こいつ、騎士どもに追われてたんだ。助けてやった」


「ほう……」


長老はゆっくりと蓮を見つめた。


「人間よ、名を名乗れ」


「天城蓮です。助けてくれて、ありがとうございます」


「助けた覚えはない。ガルドが勝手に連れてきただけだ」


ピシャリと言い放たれ、蓮は苦笑した。


「……まあ、そうですね」


「人間よ。なぜこの森へ逃げてきた?」


蓮は簡潔に事情を説明した。異世界に召喚されたこと、能力を測られたが不要とされ、殺されそうになったこと、逃げ出し、騎士たちに追われていたこと。


長老はじっと蓮を見つめながら話を聞いていた。


やがて、彼は静かに言った。


「……なるほどな。だが、お前が無害だという証拠はない。人間の言葉など信用できん」


そして、獣人たちが人間から酷い迫害を受けてきたことを語った。


蓮は真っ直ぐに長老の目を見ながら言った。


「俺はこの世界の人間とは違う。でも、俺にできることがあるならやる。そうすれば、少しは信用してもらえるんじゃないか?」


長老はしばらく考えた後、目を細めた。


「……よかろう。ならば、お前に試練を課す」


「試練?」


「この村から北に進んだ先に、"魔物の巣"がある。そこに潜む"赤牙の大狼"を討伐してこい」


周囲にいた獣人たちがどよめいた。


「長老、それは……!」


「まだ若いとはいえ、赤牙の大狼は強敵です!」


しかし、長老は冷静に告げた。


「この者が本当に召喚されし者ならば、魔物を討てるだけの力を持つはずだ。そうでなければ……ここで死ぬだけよ」


蓮は目を見開き、そしてゆっくりと息を吐いた。


(……なるほど。つまり、実力を見せろってことか)


蓮は静かに頷いた。


「分かりました。その試練、受けます」



次の日、蓮は装備を整え、魔物の巣へと向かった。


「……無理はするなよ」


ガルドが小声で言った。


「お前が死んだら、俺も怒られるからな」


「心配してくれてるんだな」


「……ちげぇよ!」


ガルドはそっぽを向いたが、その顔はどこか不安げだった。


「大丈夫さ」


蓮は微笑んだ。


「俺はまだ、死ぬつもりはないからな」


そう言い残し、彼は森の奥へと足を踏み入れた。


待ち受けるのは、強大な魔物――"赤牙の大狼"。


蓮の力が、今試される。


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