第20話 操られた村人と夜の支配者
夜の村で操られた村人たちと対峙する蓮たち。彼らを傷つけずに止める方法を探る中、森の奥から強力な魔力が感知される。黒幕の存在を確信した蓮たちは、村人を救うため夜の森へと踏み込む——。
「どうする、蓮? こいつら、完全に正気を失ってやがるぞ」
シャムが警戒しながら、目の前の村人たちを睨む。彼らの目は虚ろで、肌は青白く、まるで生気を吸い取られたかのような姿だった。
「村人を傷つけずに戦うのは難しそうね……」
リーナが呟く。確かに、このまま正面から戦えば、彼らを無事に取り押さえるのは至難の業だ。
「だけど、このまま放っておけば、俺たちも危険だ。手加減できる範囲で対処するしかない」
蓮は短く息を吐き、魔力を集中させた。
「リーナ、再び《睡眠の息吹》を頼めるか?」
「……ええ、やってみるわ!」
リーナは深く息を吸い込み、杖を掲げた。
「《睡眠の息吹》!」
淡い光が波紋のように広がり、操られた村人たちを包み込む。しかし——
「ダメ……効かない!?」
リーナが驚愕の声を上げた。
「こいつら……魔法耐性を持ってるのか?」
シャムが舌打ちしながら剣を構える。通常の村人なら、リーナの睡眠魔法で簡単に沈むはずだ。しかし、彼らは微動だにせず、ゆっくりとこちらへ迫ってくる。
「どうやら、ただ操られているだけじゃなく、何らかの強化が施されているみたいだな……」
蓮は冷静に状況を分析しながら、次の手を考えた。そのとき——
「うぅ……あ……」
操られた村人の一人が、痙攣するように震え始めた。そして、次の瞬間——
「——ァアアアアアア!!!」
耳をつんざくような絶叫が響き渡った。
「……ッ!? 魔力の流れが乱れた……?」
リーナが眉をひそめる。
「これは……こいつら、自分の意思を取り戻そうとしてるのか?」
蓮は村人たちの様子を観察した。数人が怯えたように足を震わせ、必死に何かを訴えようとしている。しかし、何かに抗えないように、すぐにまた虚ろな表情へと戻ってしまった。
「……無理矢理操られてるってことか」
「それなら、術者を倒せば解放できるはずだな」
シャムが剣を構え直し、闘志を燃やす。
「……魔力の流れを辿るわ」
リーナが杖を握りしめ、魔力感知の術を展開した。
「……感じる。この村の北東、森の奥……強い魔力の波動があるわ」
「決まりだな。術者を止めれば、村人を救えるかもしれない」
蓮は即座に決断し、森の奥へと向かうことを決めた。
村を抜け、夜の森へと足を踏み入れる。
「……妙に静かだな」
シャムが警戒しながら呟く。森の中は異様な静寂に包まれ、まるで生き物の気配がない。通常なら、夜の森では虫や鳥の鳴き声が聞こえるはずだが——今はそれすらもない。
「まるで、この森そのものが死んでいるみたいね……」
リーナが不安げに呟く。
蓮は魔力感知を使いながら慎重に進んだ。そして、ある地点に差し掛かったとき——
「……待て」
蓮は手を上げ、足を止めた。
「どうした?」
シャムが小声で尋ねる。
「この先に……何かいる」
蓮の言葉に、シャムとリーナも身構える。そして——
「ククク……よくぞ来たな」
闇の中から、低く不気味な声が響いた。
次の瞬間、霧のような魔力が森全体を包み込む。
「こいつは……!」
蓮は瞬時に魔力障壁を展開し、霧の影響を防いだ。
「ふふ……賢いな。しかし、抵抗は無駄だぞ」
霧の奥から、漆黒のローブを纏った男が姿を現した。
「貴様が、この村を襲った張本人か?」
蓮が問い詰めると、男は嘲るように笑った。
「襲った? 違うな。私はこの村の者たちを"祝福"しているのだ」
「……祝福?」
「そう、我が主の力を分け与えてやっているのだよ。おかげで、彼らはより強靭な身体を手に入れた」
「……それが、あの状態か?」
蓮の声には怒りが滲む。
「ふふ……まあ、少し副作用はあるがな」
男は指を鳴らした。すると——
「——ァアアアアアア!!!」
突然、周囲の霧の中から、先ほどの操られた村人たちが姿を現した。だが、今度は様子が違う。
「おい……! なんだよ、こいつら……!」
シャムが思わず息を呑む。
村人たちは全身が黒い靄に包まれ、異様な魔力を発していた。
「ふふ……さあ、見せてやろう。主の祝福を受けた者たちの力を!」
男が手を振るうと、村人たちは狂ったように蓮たちへ襲いかかってきた——!
「くそっ……! こうなったら、仕方ない!」
蓮は剣を抜き、正面から応戦する。
「シャム、リーナ! こいつらを止めるぞ!」
「おう!」
「分かった!」
こうして、夜の森での激戦が始まる——。




