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最終話  全創の地平線・後編

いつもお読みいただきまして、ありがとうございます。

本話をもって最終話となります。



星詠の神譜が世界を癒し、《黎明の帝国アウローラ》がその礎を築いてから三ヶ月が過ぎた。


帝都セレスティア・グラウンドは日に日に活気を取り戻し、各地から移民や技術者が訪れ、蓮のもとで新たな未来を築きつつあった。


蓮は、元は一介の流浪者であった自分が、いまや国の象徴として人々に慕われていることに、まだ戸惑いを隠しきれないでいた。


「……俺が“王”か。なんだか実感がわかないな」


広い執務室。


窓から見えるのは、復興が進む帝都の街並み。


整然とした街区と、その奥にそびえるクリスタルの尖塔が、魔力と理性の調和を象徴していた。


蓮の背後から、そっとイリスが寄り添う。


「でも、あなたじゃなきゃ成し得なかった。私、知ってる。あなたが、どれだけこの世界に希望を託したか」


「……そう、だな。今さら逃げるつもりもないし、逃げ場もない」


イリスがそっと微笑み、彼の肩に頭を預ける。


「だったら、少し休んで。あなたの休息も、世界の未来のためなんだから」


「……ありがとう、イリス」


静かな夜、二人の時間が流れてゆく。


やがて窓の外に星が流れ、その瞬間――イリスがふと口を開いた。


「ねえ、蓮。あのとき、私があなたに出会わなかったら、私はずっと――孤独な竜だったと思う」


「そんなこと、ない」


蓮は断言した。


「俺が出会わなければ、誰かが君と出会ってた。だけど――俺だったことが嬉しい。心から」


イリスの目が潤む。


「……もう、そういうことをさらっと言うの、ずるい」


「なら、お返しに……」


蓮は彼女の手を取り、そっと唇を重ねた。


その夜、ふたりは互いの未来を静かに誓い合った。




一方その頃、リーナとシャムもまた、それぞれの新たな役割に奔走していた。


リーナは軍事統括の補佐として、新たな部隊編成と防衛線の構築に尽力しており、シャムは外交と治安維持の司令官として、各国との連携を精力的に進めていた。


ある日の夕暮れ、帝都の外れにある訓練場にて――


「……おい、サボるなよ、リーナ」


「うるさい、こっちは仕事終わりの自主トレよ!」


二人は互いに武器を交え、久々の一騎打ちを楽しんでいた。


剣と槍、技と技、意思と意思――


やがて剣先が互いに交差し、動きが止まる。


「……やっぱり、強くなったな、お前」


「そりゃそうよ。あんたに振り向いてもらうために、どれだけ努力したと思ってるのよ」


その一言に、シャムは面食らったような顔をして、少し照れくさそうに笑った。


「もう、振り向いてるよ。とっくに」


「……ふふっ、やっと素直になったわね」


肩を並べた二人のシルエットが、茜色の空に溶けていった。




その頃、ミストは帝国研究機関アーク・ルミナスの主任技術官として、異世界技術と魔術理論の融合に取り組んでいた。


「この世界が再び歪まないように、次元震の余波を無効化するフィールドを構築中です」


彼女はそう言いながら、ネフェリスやノア、マリルらと共に「星の観測塔」の頂で、未知なる力の残響を測定していた。


「ただ……奇妙な数値があるの。別の時空からの干渉が、微弱ながら観測されてるのよ」


ネフェリスが眉をひそめた。


「まさか、“彼女”が動き出したのか……?」


「ええ。間違いないわ」


マリルが静かにうなずいた。


「このままでは、もう一つの世界からの侵食が始まる。私たちの物語は……まだ終わっていないのよ」




その翌日――蓮のもとに、緊急報告が届いた。


《クロノ・パリティ》の封印領域に異常が発生。


封印の一角が、外部から破られた形跡があった。


「まさか……また、時空の歪みが……?」


蓮が駆け出す。


次なる戦いの予感に、胸が騒いだ。


そのとき、天空に――裂け目が現れる。


そこから覗いたのは、もう一つの世界。もう一つの未来。


《異界交叉点〈クロスオーバー・シンギュラリティ〉》が、ついに開かれたのだ。




空が、音もなく割れた。


紫と漆黒が混ざり合った裂け目が、天に横たわる。


その中心には、既視感を伴う異形の城砦。


ねじれた時空の外縁から、明らかにこの世界の理に属さぬ“何か”が流れ込んでいた。


「……来たか。いや、来てしまったか」


蓮は《時詠の神輪》を手に取り、己が足でその裂け目の前に立った。


イリスが傍らに寄り添う。


「これは――ただの異界との接続じゃない。世界そのものの境界が、融合しはじめてる……!」


「融合だと?」


後ろから駆けつけたミストとネフェリス、そしてノアが揃って頷く。


「観測したところ、因果律が歪み始めている。どうやら、複数の並行世界が、この一点で交錯しているようなのです」


「つまり、すべての“可能性”が、ここで一つになろうとしている」


マリルが、あの無機質な声で言い放つ。


「これは、創造と破滅の分岐点。名付けるなら――『全創の地平線』とでも」




事態の緊急性を鑑み、帝国は即座に防衛ラインを再構築した。


だが、時間はなかった。


裂け目からは、既に多数の“異界体”が流入し始めていた。


それらは物理法則すら無視し、想像を超えた姿と力で帝都に迫っていた。


シャムとリーナは、前線に立ち抗戦する。


「こいつら……まるで、感情も思考もない。純粋な破壊の意思だけで動いてやがる!」


「でも、止めなきゃ。ここで止めなきゃ、私たちが築いたすべてが無に帰す!」


二人の連携は息を呑むほど美しく、互いの技と意志が融合していた。


その合間――


「シャム、あんた……私が好きなんでしょ?」


「……今それ言う!?」


「今だからよ。死ぬかもしれないんだから」


「……ああ、好きだよ。ずっと前からな。けど、ちゃんと生き延びてから、もう一回言わせろ」


「ふふっ、約束よ?」


敵を蹴散らしながら、未来への約束を交わす二人。




一方、蓮は神譜の力と共に、異界の核心へと足を踏み入れていた。


そこは――記憶と夢と可能性が渦巻く空間。


彼の前に立ち塞がったのは、自分自身だった。


「……お前は?」


「“もしも”の俺だよ、蓮。力に呑まれ、仲間を失い、孤独に全てを焼き払った存在」


その蓮の“影”は、《黒の神譜》を纏っていた。


「お前に問う。すべてを救うために、いくつの未来を犠牲にする覚悟がある?」


「――それでも、守る。俺は、俺の仲間たちと選んだ世界を、未来を、信じる!」


二つの“蓮”がぶつかり合う。


神譜の光と影が、異界の中核で激突し、時空を揺らす。


「俺は、独りじゃない!!」


その叫びに応じるように、イリス、シャム、リーナ、ミスト、ネフェリス、ノア、マリル――すべての仲間たちの想いが重なり、蓮の神譜が光を放つ。


《創星神譜〈インフィニティ・ソース〉》


世界のすべての記録を繋ぐ書。


それが、新たなる神譜の姿だった。




裂け目の向こう、もう一つの世界が融合を拒むようにうねり出す。


そして、現れた“異界の王”――その正体は、古の時代に封じられた、理を超えた存在《デウス=ナノス》。


「汝らは選択を間違えた。故に、この宇宙を再構成する。完全な形で」


その言葉と共に、異界の領域が全創世界に喰らいつこうとする。


「させるかあああああああっ!!」


蓮が、《インフィニティ・ソース》を高く掲げる。


「この世界の未来は、俺たちの手で決める!!」


仲間たちの想いが、魔力が、時の記録が一点に集束する。


そして――《全創の地平線》が開かれた。




《インフィニティ・ソース》が開かれた瞬間、世界は「記録」と「記憶」の奔流に呑み込まれた。


数千、数万、数億の可能性――並行世界の蓮たちが、まばゆい星のように交錯する。


だがその中心で、たった一つの“選ばれた未来”が確かに芽吹こうとしていた。


蓮は、その核心に立っていた。


「お前が……世界の選択だというのか」


異界の王《デウス=ナノス》が低く呻く。


圧倒的な力を誇ったその存在は、蓮の放った光の中で急速に溶解し、崩れていく。


「違う。俺じゃない。――俺たちだ。全てを乗り越えてきた“意志”の積み重ねが、この世界を導いたんだ!」


《デウス=ナノス》は最後にひとつ、虚無の眼で蓮を見つめた。


「……ならば、見せてみろ。貴様らの“未来”を」


そして、崩壊と共に“異界の門”は静かに閉ざされた。




大戦の終焉から数週間――


かつての帝都エル=グランズは、建国史上最大の復興の渦中にあった。


蓮たちはついに、国を興した。


その名も――


黎明帝国〈ノヴァリア〉


「人と魔族、竜、精霊、機械……すべての種族が共存できる国。それが、俺たちの目指した場所だ」


広場に立つ蓮の演説に、万雷の拍手が沸き起こる。


隣にはイリスが寄り添い、シャムとリーナも一歩後ろに並ぶ。




――夜。王宮のバルコニーにて。


蓮とイリスが静かに寄り添っていた。


「……本当に、終わったのね」


「いや、これから始まるんだ。俺たちの“国”が」


イリスはその金の瞳を細め、微笑む。


「ねえ、蓮。あなたは、私のこと……好き?」


「……っ! お、おう。い、今さら何だよ……!」


「ふふっ、言って。ちゃんと言葉で聞かせて」


「……好きだよ。世界が終わろうが、どれだけ時が流れようが、ずっとな」


イリスはその答えに満足げに頷き、蓮の肩に頭を預けた。


「私もよ、蓮。世界の果てでも、あなたといたい」


夜空には、まだ小さな新星がまたたいていた。




一方――シャムとリーナの姿は、王都郊外の並木道にあった。


「あの時……リーナが言ってくれなかったら、たぶん俺、ずっと逃げてた」


「私だってよ。戦いの中でしか、自分の気持ちを伝えられないなんて、不器用すぎるよね」


「……じゃあさ、リーナ」


「ん?」


シャムは目を逸らしながらも、手を差し出す。


「次の戦いが来る前にさ――もう一度、告白させてくれないか?」


「うん。じゃあ、私ももう一回振られ直す覚悟、しておく」


「いや、振られる前提!? おい、そこは受け入れてくれよ!」


笑いながら、二人の手はそっと重なる。


恋が芽吹くのは、いつだって「これから」なのだ。




そして――


ミスト、ネフェリス、ノア、マリル。戦いを共にした仲間たちは、それぞれ新たな役目を担っていた。


神譜管理庁、世界調停機関、研究院、騎士団。蓮が創った“器”の中で、彼らは自らの意志で未来を築いていた。


その誰もが、確かに“歩き出して”いたのだ。




物語の終わりに、蓮はかつての仲間たちと《黎明の丘》に立った。


彼の背後には、もう一つの神譜が浮かび上がっていた。


《未来神譜〈ミライ・クロニクル〉》


それは、誰も知らない未来の記録。


「俺たちは、ようやく“始まり”の地点に立てた」


「これから、どうなると思う?」


イリスが問いかける。


蓮は空を見上げる。


「わからない。でも、きっと――また戦いも、涙も、笑顔もあるだろう。でもな」


彼は拳を握る。


「どんな未来も、俺たちなら越えていける。そうだろ?」


仲間たちが頷いた。


黎明の空に、七色の光が立ち昇る。


これは、一つの物語の終わりであり、


――新たなる物語の、始まりである。



  〈完〉


  ……to be continued in:

  「黎明帝国戦記〈ノヴァリア・クロニクル〉」

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これまで応援していただき、ありがとうございました。


なお、第2作目の作品『定年異世界転生 ~家電の知識で魔法文明をアップデート!~』もよろしくお願いします。

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