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第200話 全創の地平線・前編

いつもお読みいただきまして、ありがとうございます。

それは、すべての始まりであり、すべての終わりでもあった。


白銀の空に浮かぶ巨大な環状構造物――〈創界環〉が、世界の天頂で輝いていた。


その中心には、今なお螺旋状に回転を続ける時空の渦が生じており、そこから放たれる光が、まるで神の指先のように大地を照らしている。


蓮は、創界環を見上げながらゆっくりと息を吐いた。


「ここが……最後の舞台か」


彼の傍らには、イリス、リーナ、シャム、そしてカイエン、ミスト、ネフェリス、ノア、マリルといった、これまで共に戦い抜いてきた仲間たちが静かに立っていた。


誰もが口を閉ざし、ただ、この最終決戦の地に立つ覚悟を確かめ合っている。


だが、その沈黙の中に、不意に割り込むような柔らかい声が響いた。


「蓮、終わったら……少しだけ、一緒に旅をしない?」


イリスだった。


金色の髪が風に舞い、青い瞳に揺らめく光が、かつての戦火を越えた優しさに満ちていた。


蓮は、軽く笑った。


「もちろん。その時は、世界じゃなくて、君を守るために剣を振るうよ」


イリスの頬が、ほんのわずかに赤く染まった。


「……バカ」


だが、そのやり取りを見ていたリーナが、少しだけ苦笑しながらぽつりと漏らす。


「まったく、ここまで来てまで甘々ね」


シャムも、それに同意するように肩を竦めた。


「でもまあ……俺たちには、そういう未来があってもいい頃かもな」


その言葉に、誰もがふと目を伏せる。


無数の戦い、無数の犠牲、無数の希望――それらがすべて、この〈全創の地平線〉へと集約される。


そして、空間の揺らぎと共に、彼らの前にそれは現れた。


――冥府帝〈カオティクス〉。


黒紫の鎧に包まれた人影。


その背中には、かつて存在したいくつもの世界の断片が浮かび、まるでその者が全てを滅ぼし、奪い、喰らい尽くしてきた証そのもののようだった。


冥府帝の声が、空間を震わせる。


「星を継ぎし者よ。汝の意志は、果たして『終焉』に抗えるか?」


蓮は、一歩前へ出た。


「俺たちは、未来を創るためにここまで来た。終焉に抗うんじゃない……始まりを掴みに来たんだ!」


次の瞬間、仲間たちは一斉に武器を構えた。




第一撃は、シャムの放った〈断罪雷槍アヴァロン・ブレイカー〉だった。


巨大な雷の槍が天を裂き、冥府帝の背後に浮かぶ破滅の残響ごと、空間を砕く。


しかしその直前、冥府帝の周囲に展開された多重位相結界が衝撃を受け止め、虚空へと打ち消す。


「効かない……のか!」


シャムが舌打ちしながら距離を詰めようとする。


だが、冥府帝の一振りで彼は吹き飛ばされた。


シャムの身を受け止めたのは、リーナ。


「油断しないで、あれは……重ねられた世界の因果そのもの!」


リーナがすかさず詠唱する。


「〈星天旋律オル・セレスタ〉……この手に宿れ、律の光よ!」


詠唱が完了した瞬間、冥府帝の周囲に展開されていた位相結界が一部砕ける。


続けざまに、ミストとカイエンが連携攻撃を仕掛けた。


「いけっ、ネフェリス! 今なら……!」


「了解――〈神秘圧縮波フォトン・コンバージェンス〉!」


ネフェリスが生み出した光の玉が、冥府帝の胸元に直撃する。


激しい爆発が起こり、黒紫の鎧が僅かに砕ける。


そこに――蓮が動いた。


彼の手には、無限アイテムボックスから取り出された二振りの剣。


一本は〈黎明の光剣アーク・ルミナス〉。


もう一本は、闇の力を宿した〈黄昏の魔剣ディスペル・レーヴ〉。


光と闇、二つの極が交差する刹那、蓮の身体が淡い黄金の光に包まれた。


「これが、俺の『すべて』だ!」


冥府帝と蓮の剣が激突する。


その瞬間、世界は止まったかのような静寂に包まれた。


だが――


次の瞬間、天と地がひっくり返るほどの衝撃波が奔り、全員の視界が白に染まった。


それは、〈創造〉と〈終焉〉が正面からぶつかり合った結果だった。




誰よりも早く視界を取り戻したのは、イリスだった。


「……蓮!」


彼女は駆け寄る。


蓮は地面に膝をついていたが、剣を手放していなかった。


「無事、よ……ね?」


「ああ、ギリギリだけどな。でも……あいつも、無傷じゃない」


視線の先に、冥府帝がいた。鎧の半分は崩れ、仮面の下から覗くのは、奇妙に歪んだ、いくつもの「顔」。


「これは……複数の魂が一つに……?」


ミストが絶句する。


冥府帝は、かつて滅びた世界の王や神を吸収し、その魂を融合させて「存在の特異点」として形成された存在だった。


そして今、その器が崩壊を始めている。


「我は……存在を超越する者……再創の神……」


冥府帝が、最後の力を振り絞って空間に手をかざす。


その瞬間、〈創界環〉が再び輝きを放ち、空間が捻れ、時空の断層が浮かび上がった。


「蓮、このままだと――この世界ごと……!」


ノアが叫ぶ。


だが蓮は、静かに首を振った。


「終わらせる。全部、ここで。未来に繋ぐために!」


彼は最後の魔力を解放する。


二本の剣が再び交差し、〈創造〉と〈再構成〉の魔法陣が浮かび上がる。


「――終焉を越えろ、《アルティメット・ホライズン》!」


放たれた光が、すべてを包み込んだ――。




光が収まったとき、そこにあったのは――静寂。


空は晴れわたり、大地は崩壊を止め、ゆっくりと再生を始めていた。


「……終わった、のか?」


カイエンがそう呟く。


だが、皆の視線はひとりの男に向いていた。


蓮――彼はその場に膝をつき、剣を支えにして立っていた。


身体はボロボロだったが、その顔には確かな微笑みが浮かんでいた。


「……間に合ったみたいだな」


すぐ傍に、イリスが駆け寄る。


「バカ! 無理しすぎなのよ!」


イリスが泣きそうになりながら彼の身体を支える。


蓮はそんな彼女に微笑みながら、そっと手を握った。


「でも、イリスが隣にいたから……俺は、前に進めた」


その言葉に、イリスは堪えきれず、蓮の胸に顔をうずめた。


「……もう、絶対に離れない。未来も、全部……一緒に歩くんだから!」


「うん。俺も、ずっと一緒にいたい」


その言葉に、ほんのわずかに紅潮したイリスが、そっと蓮に口づけを落とした。


仲間たちは、微笑ましく見守っていた――いや、一部の者を除いて。


「……いい雰囲気だが、僕たちはどうする?」


シャムが、ふとリーナに声をかける。


彼の目は、これまで以上に真剣だった。


「リーナ。僕はずっと、お前を見てきた……仲間として、戦士として、そして……一人の女性として」


「……シャム」


リーナが目を見開く。


「この戦いが終わったら、伝えようと決めてた。俺は、お前が好きだ」


リーナは一瞬言葉に詰まり、頬を赤らめながら、それでもはっきりと答えた。


「……私もよ。ずっと前から、シャムの背中を追ってたの。気づいてなかったと思うけど」


「いや、気づいてたさ。けど、ずっと……自信が持てなかった。でも、今なら言える。これからは……俺の隣にいてほしい」


「……はい」


固く握り合われた二人の手に、仲間たちから祝福の拍手が沸いた。




その後――


戦後処理のため、蓮たちは各地を奔走した。


冥府帝によって乱された時空と大地は、《星詠の神譜》と呼ばれる儀式によって少しずつ修復されていった。


各地の王国からの使者が蓮を訪れ、新たな秩序の象徴として、彼の建国を支持する意志を表明した。


そして、ついに――


《建国の儀》が執り行われる日が訪れる。


空に大地に魔力の波が満ち、万象が整う中、蓮は王の装束に身を包み、玉座の前に立つ。


「……今日より、我が国は《黎明の帝国アウローラ》として歩み出す」


その声に、全土から歓声が沸き上がる。


シャム、リーナ、イリス、ミスト、カイエン、ネフェリス、ノア、マリル……全ての仲間がその場にいた。


イリスは、蓮の隣に立ち、誇らしげに微笑んでいた。


シャムとリーナは、それぞれの役職に就きながらも、手を取り合い、穏やかな未来を築こうとしていた。


それぞれが、それぞれの役目を果たす日々が、今まさに始まろうとしている。


――しかし。


この平和の始まりの裏で、ひとつの異変が静かに進行していた。




《クロノ・パリティ》で封じたはずの、ひとつの時間軸。


その端末で、黒衣の少女が静かに微笑んだ。


「……やっと、此方のターン。愚かな神々も英雄たちも、皆終わらせてあげる」


彼女が見つめていたのは、《もう一つの地平線》。


時空の外れにある、未知なる並行世界――その名も《永劫の宙域〈エターナル・シェルター〉》。


そして、そこに――"もう一人の蓮"が存在していた。

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なお、第2作目の作品『定年異世界転生 ~家電の知識で魔法文明をアップデート!~』もよろしくお願いします。

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