第2話 追跡者と最初の仲間
異世界に召喚されるも「不要」と判断され、殺されかけた天城蓮。覚醒した魔法の力を使い、追っ手から逃れるため深い森へと身を隠す。しかし、追跡を振り切ることは容易ではなく、ついに森の奥で騎士たちに追い詰められる。絶体絶命の状況の中、彼を助けたのは意外な人物だった――。
「はぁ、はぁ……」
蓮は必死に森の中を駆けていた。
背後からは騎士たちの叫び声と馬の嘶きが響く。濃い霧を発生させて追跡を攪乱したものの、完全に振り切ったわけではなかった。
「逃がすな! あの異世界人を捕らえろ!」
蓮は奥歯を噛みしめる。
(……ちくしょう、あのまま大人しくしていたら確実に殺されてた。だったら、ここで足掻くしかない!)
彼の目の前には、さらに暗く険しい森が広がっていた。枝が絡み合い、地面は湿って滑りやすい。それでも蓮は迷わず進む。
「ここまで来れば……」
しかし、その時――
バキィッ!
「ぐっ……!?」
足元の地面が崩れ、蓮の体が急激に沈んだ。どうやら腐った木の根が絡まる地面が踏み抜かれたらしい。蓮は土埃を上げながら落ち込み、茂みの中に転がり込んだ。
「う……痛ってぇ……」
全身が泥まみれになる。幸い骨折はしていないようだが、左足首を軽く捻ったようだった。
(マズい……動けるには動けるけど、こんな状態でまた走るのはキツい)
騎士たちが迫ってくる気配がする。
「くそ、隠れられる場所は……」
蓮は必死に周囲を見渡した。目の前には、巨大な木の根元に広がる洞窟のような空間がある。
(……ここしかない!)
蓮はその空間に素早く滑り込み、息を殺した。
「どこへ行った!?」
騎士たちが蓮の落ちた場所へと到着した。鎧がこすれる音が響き、数人の騎士が剣を抜く。
「確かにこの辺りに逃げたはずだ!」
「足跡はここで消えているな……」
「崖から落ちたか?」
「いや、まだ死んだとは限らん。注意して探せ!」
騎士たちは周囲を念入りに調べ始めた。蓮は洞窟の中で息をひそめ、彼らの会話を聞いていた。
(やばい……見つかったら終わりだ)
蓮は慎重に魔法を発動した。
「《無音の帳》」
周囲の音を消す魔法だ。自分の気配を悟られないように、微弱な魔力で発動する。
「……チッ、見つからん。撤退するか?」
「いや、少し休んでから再捜索する。森の外には出ていないはずだ」
騎士たちはその場にとどまり、見張りを続けるようだった。
(このままじゃ、夜明けまでここに閉じ込められるかもしれない……)
蓮は冷や汗を流しながら、脱出の機会をうかがっていた。
「……?」
ふと、蓮は背後に気配を感じた。
(なんだ? 何かいるのか……?)
暗闇の中で、何かが動く音がした。
次の瞬間――
「くぅ……」
「!? なんだ……?」
蓮は目を凝らした。すると、洞窟の奥で光る"金色の瞳"が見えた。
(狼……? いや、これは……)
蓮の前に現れたのは、一匹の獣人だった。
銀色の毛並みを持ち、精悍な顔つきをした獣人の少年。まだ若いが、その瞳には鋭い光が宿っていた。
「……お前、人間か?」
少年が低い声で問う。
蓮は反射的に頷いた。
「そうだ。だけど、ここにいる騎士たちには追われてる」
少年はしばらく蓮を見つめた後、静かに言った。
「……お前、運がいいな。俺が助けてやる」
「……は?」
蓮が戸惑う中、少年は洞窟の奥へと手招きした。
「この先には、俺の仲間たちがいる。人間にはあまり親切じゃないが……お前が本当に騎士どもの敵なら、匿ってやれるかもしれない」
「……助かる」
蓮は深く息をつき、少年の後についていった。
(まさか、こんなところで獣人に出会うとは……)
彼は、これが運命の分岐点になるとはまだ知らなかった――。