第198話 神歴の終息点
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降りしきる蒼の光が、空と大地の境界を曖昧にする。
星詠の塔——かつて無限なる叡智の頂と呼ばれたこの場所は、今、世界の命運を賭けた最終交渉の舞台となっていた。
「……神歴、一三四七年。世界の継承者たちがこの場に集いし刻、神話は終焉を迎えるだろう」
カイエンの低い呟きが塔の頂上に響く。
彼の背後には、蓮、イリス、リーナ、シャム、そしてミスト、ネフェリス、ノア、マリル——すべての軌跡が収束した面々が並ぶ。
そして、対面には、<神格融合体>と化した『虚無の皇』が在った。
帝国と神域のあらゆる因果を纏いし存在。
それはもはや人の理解を超えた超越存在であり、同時に、世界を覆う“終わり”そのものでもあった。
「……来たか。運命に抗いし者どもよ」
虚無の皇の声は、次元の淵から響くようだった。
人というより、概念に近い。
それでも、蓮は一歩踏み出した。
「俺たちは、ただ“未来”を掴みに来ただけだ。滅びじゃなく、希望の先を選ぶ……それだけだ」
蓮は無限アイテムボックスから、かつて<時の巫女>から託された“継承の鍵”を取り出した。
それは、神話と歴史を繋ぐ唯一の遺産。
だがそれを使うためには、膨大な魔力と意志が必要だった。
イリスが前に出る。
「私が補佐する。古代竜の記憶が、その力を安定させる」
「僕も加勢しよう」
ミストが右手を掲げ、魔法陣を重ねる。
さらにノアが翼を広げ、転移陣の中心に干渉する。
「未来の座標をずらす……因果を裂く鍵となるなら、我が“風”を使ってくれ」
光が集まり、時空が捻れる。
だが、虚無の皇はその流れを打ち砕くように、手を翳した。
次の瞬間、空間そのものが“消失”した。
塔の一部が、音もなく消えている。
「これが……時空消去か!?」
シャムが眉をひそめた。
「もう時間がない……!」
蓮は叫ぶように叫び、再び鍵を掲げた。
「――《創界顕現式・因果逆奏陣》!」
その言葉とともに、蓮の足元から世界樹の模様が浮かび上がり、周囲の全員を包み込む。
「全員、力を合わせろ!」
叫びが時空を貫く。
世界の各地で、それぞれの陣営にいる仲間たち——レジスタンス、かつての敵までもが、共鳴するように祈りを捧げていた。
「蓮様……」
リーナがそっと隣に寄り添う。
彼女の手には、建国の約束を記した“王の証”が握られていた。
「これは、あなただけの戦いじゃない……すべての人の未来のために」
「……ああ」
蓮は頷くと、意識のすべてを“鍵”へと注ぎ込む。
――その瞬間だった。
空が裂けた。
そして、そこから現れたのは、かつて蓮たちが渡ってきた“元の世界”の因果だった。
「時空の交差点が、開かれた……!」
ネフェリスが呟いた。
交わる異界、繋がる歴史、そして訪れる選択。
虚無の皇は、静かに手を降ろした。
「愚かで……だが、美しい選択だ。世界の終焉より、再創を選ぶか」
「……お前が世界を否定しても、俺たちは世界を信じる」
蓮はそう言い放つと、ついに“継承の鍵”を“創界の源泉”へと挿した。
神歴の終焉と共に、世界の因果が塗り替えられていく。
光が走り、虚無の皇は少しずつ崩壊していく。
だがその表情は、どこか安堵にも似た微笑を浮かべていた。
「また……いつか、別の世界で……」
その言葉を最後に、虚無の皇は消滅した。
――静寂。
だが、世界は消えていなかった。
むしろ、再び呼吸を始めていた。
「……建国、だな」
どこか笑いながら、蓮は空を見上げた。
世界は、虚無から解放された。
残された瓦礫の中に、再構築された“光の柱”が立ち上がっていた。
それは新たな世界樹の芽生えだった。
「名を……決めないとな。俺たちの国の」
イリスが微笑む。
「“エルゼリア”。どう? 希望の綴り」
「悪くない」
そう言って、蓮は歩き出す。
新たなる国家。
それは、すべての因果を乗り越えた果ての楽園ではない。
未だ未完成で、挑戦に満ちた“始まりの場所”。
だが、蓮は信じていた。
仲間とともに歩む限り、いかなる運命も超えてゆけると。
そして——
空の裂け目の向こう、誰にも知られぬ“第三の世界”が、密かに姿を見せていた。
それは、未来へと繋がるもう一つの神話の始まりだった。
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なお、第2作目の作品『定年異世界転生 ~家電の知識で魔法文明をアップデート!~』もよろしくお願いします。




