第197話 異界交叉点
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世界が軋みを上げていた。
空間に縦横無尽に走る亀裂は、まるで無限に増殖する運命の分岐点を可視化したようで、そこに踏み込む者の存在を拒むかのように、赤黒い閃光を迸らせていた。
「ここが……時空の交差点、そして“あの場所”か」
蓮は、虚空に浮かぶ巨大な空間の歪みを前に、無意識に息を呑んだ。
足元には、魔導文明の残滓とおぼしき巨大な環状構造――“原初の転送基盤”が眠っている。
その中心には、激しく脈打つように鼓動する、紫紺色の球体。
あれこそが、次元境界を突破し、異界へと繋がる“扉”の正体だ。
イリス、リーナ、シャム、そして新たに加わった五人の精鋭――マリル、カイエン、ミスト、ネフェリス、ノア――すべてがこの場に集結していた。
「おいおい、本当に行くのかよ? あの中に」
カイエンが唾を飲む。
普段は無鉄砲な彼ですら、この空間が“正常ではない”と直感しているのだ。
「行くしかないさ」
蓮はそう答えると、腰に装着した《インフィニティ・ボックス》に手を当てた。
「向こう側にあるものが何であれ――それを超えなければ、オレたちの戦いは終わらない」
イリスが頷く。
「境界が不安定になっている今なら、あの扉を通過できる可能性は高い。ただし、全員で向かうのは危険。時空の振動数に耐えられるのは、おそらく三名が限界よ」
「なら、俺と……イリス、シャム。三人で行く」
蓮の言葉に、リーナが異を唱える間もなく、シャムが口を開いた。
「問題ない。だが蓮、これは帰還の保証がない任務だぞ」
「ああ。それでも……行かない理由はない」
準備は整った。
扉の中心に接触すると同時に、蓮たちの意識は光に呑まれ――そのまま“あちら側”へと転送された。
目を覚ました蓮たちは、奇妙な風景の中にいた。
空は逆巻き、重力は不安定に揺らぎ、大地は無数の記憶の断片で構成されている。
そこは“因果律の余白”、すなわち世界のすべての選択が集約される特異点――シンギュラリティ。
「ここが……クロスオーバー・シンギュラリティ……!」
シャムが膝をつき、額に浮かぶ汗を拭う。
「想像以上だ。これは……ただの異界じゃない。ここには、無数の“可能性の世界”が交差している」
「つまり……この場所で、あらゆる未来が決まるってことか」
蓮は目を細め、前方に広がる異形の建造物を見つめた。
そこには、巨大な王座と、異形の存在が座していた。
「来たか、選ばれし者よ」
声が、直接脳内に響く。
「お前たちがこの場に到達したこと自体が、すでに世界の運命を変えている」
異形は、かつて人であったらしい影を宿していたが、すでにその形を保っていない。
無数の時空を飲み込んだ“神に等しい存在”――
「お前が……この世界の黒幕か」
蓮の問いに、異形は首をかしげるような素振りを見せた。
「黒幕? 違うな。我はただの“交差点の管理者”に過ぎぬ。選択の責任は、常にお前たちにある」
「なら、ここでオレたちが選ぶ道は、たった一つだ」
蓮はインフィニティ・ボックスから、《神核結晶〈コア・オブ・ワールド〉》を取り出す。
それは、今までの戦いの中で得た、すべての力と希望の結晶。
「この力を持って、お前を乗り越える。世界の未来を、オレたちの手で掴むために!」
戦いが始まった。
空間ごと崩壊する規模の激戦。
あらゆる魔法、術式、武装が意味をなさない領域で、蓮は“意志”そのものを武器に変えて戦った。
イリスは次元の歪みを操り、シャムは因果の切れ目に刃を滑り込ませる。
三人は互いの動きを読み合い、まるで一つの存在のように調和していく。
そしてついに、蓮は相手の中心核――“観測される存在”としての心核に至る。
「お前のすべてを……上書きする!」
蓮の声とともに、世界そのものが反転する。
運命の交点が、新たな地平を描いた――
「……目を、覚まして」
リーナの声が響く。
蓮が目を開けると、そこは元の世界だった。
「戻ってきた……」
呆然と呟いた蓮に、マリルが駆け寄る。
「何があったの!? 境界の扉が光に包まれたと思ったら……!」
「“交差点”を越えた。未来の選択肢を、オレたちで塗り替えた」
静かに語る蓮の背後には、空の裂け目が完全に閉じる光景が映っていた。
「これで……“全て”が終わったわけじゃない。でも、ひとまずの決着はついた」
リーナが微笑む。
蓮の国家建設は、次の段階へと進もうとしていた。
だが彼の眼差しは、さらにその先――新たな異界への可能性を、確かに見据えていた。
「この世界が終わったとしても……まだ“別の世界”が待ってるんだろ?」
その言葉に、誰もが頷く。
こうして、世界の運命を超えた先に、新たなる未来への幕が上がる。
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なお、第2作目の作品『定年異世界転生 ~家電の知識で魔法文明をアップデート!~』もよろしくお願いします。




