第196話 皇統終焉の檻
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〈帝都ヴィルヘルム・ゼクス〉。
六重の防壁が幾何学的に張り巡らされた、帝国の中枢にして象徴。
その最奥にして、蓮たちが目指す“皇統の玉座”が存在する。
だがその目前に、すべてを塞ぐように屹立する“黄金の門”が立ちはだかっていた。
「――これが、“ラスト・インペリアル・ゲート”……」
蓮の瞳が鋭く光る。
その門は、ただの物理的な障壁ではない。
帝国建国時より伝わる神格兵装の一つ。
血統をもってのみ開かれる最終関門だ。
イリスが空中を舞いながら門に視線を注いだ。
「この門は、歴代皇帝の魂と記憶を鎖として封じている……無理に突破すれば、皇統そのものを怒らせることになるわ」
「なら、俺がやる」
静かに前へ出たのは――シャムだった。
「……シャム?」
「俺には、“あの方”の血が流れている。わずかだが、帝家の因子を持つ者として、この門に呼ばれているのがわかる」
沈黙が走る。
だが、誰もが彼の覚悟を否定しなかった。
「行ってこい、シャム」
蓮が右手を軽く掲げると、彼は静かに頷いて歩み寄る。
そして、黄金の門に指先を触れた瞬間――
――カンッ。
金属とは思えぬ音が鳴ったかと思えば、門がゆっくりと、自ら開いていく。
「開いた……」
リーナがつぶやく。
だが、門の奥から現れたのは、ただの玉座ではなかった。
「ようこそ、革命者たちよ。我が〈星皇の間〉へ」
その声と共に現れたのは、黒金の装甲を纏う皇帝――
「皇帝レガル=エルネスト……!」
「違う。これは《機械皇》だ」
ミストの言葉通り、それは人の姿を模した戦闘兵器だった。
神造機構〈星詠みの枢機〉の奥に封じられし、自律防衛機構の最終防衛端末――
「我が名は《機神統皇・アウストリア》。旧皇統の意志を継ぎしもの。貴様ら反逆者に、皇統の裁きを下す」
その瞬間、空間そのものが歪み、〈星皇の間〉が闘技場へと変貌する。
黄金の光柱が天井から伸び、蓮たちを閉じ込める結界が張られた。
「これはもう避けられねえな……」
カイエンが刃を抜く。
ネフェリスが軽やかに杖を掲げ、魔力を集束させた。
「蓮、作戦は?」
「全員、連携は徹底だ。こいつは恐らく、帝国の“意思”そのもの。なら、正面から殴っても意味がない」
「つまり、“心”を撃ち抜けと?」
イリスがにやりと笑った。
「任せて。竜の力、見せてあげる」
瞬間、彼女の背に蒼き竜翼が広がる。
霊子の奔流が爆ぜ、戦いの号砲が鳴る。
アウストリアの一撃が地を穿ち、鋼の雷が空を裂く。
だが蓮たちはそのすべてを読み、連携の力で対抗していく。
「リーナ、左! カイエン、援護頼む!」
「了解っ!」
「任せとけ!」
シャムの刃が機皇の関節を斬り裂き、ミストの精密魔術がその隙を突いて炸裂する。
だが、それでも倒れない。
「甘いな。お前たちは、ただの“個”でしかない」
アウストリアが言い放つと、空間が収束し、無数のコピー機兵が出現する。
「集団戦に切り替えてきたか……!」
「なら、俺の出番だな!」
蓮が《無限アイテムボックス》から、次々と展開する。
「全軍、展開ッ!」
彼の呼び声と共に、蓮がかつて築いた「解放区の義勇軍」「竜牙の民」「魔術結社ルーンイーター」の代表戦士たちが、次々と転送されてくる。
「これは……っ!」
「戦いは、“俺たち”のものだ!」
革命の灯が集結する。
まるで一つの国家が一つの意志を持ったかのように、全戦力が統一して《機神統皇》を押し返す。
――そして
幾千、幾万の攻防を経て、アウストリアの動きが鈍り始めた。
「今だ! 最後の一撃、行くぞッ!」
蓮が跳ぶ。
全員の魔力をその剣に収束させる。
剣の名は、《星詠の破刃》。
あらゆる星の運命を断ち切る意志の象徴。
「――終わらせる!」
アウストリアの胸部へ、剣が深く突き立てられる。
「……我が皇統、ここに終焉を迎える。されど……歴史は続く……“皇なき時代”に……星は、何を語るのか……」
機神が崩れ落ちると同時に、玉座が砕け、空が割れた。
光と風が、帝都を包み込む。
そして、静寂。
蓮は、仲間たちと共にその場に立っていた。
勝ったのだ。
皇統を打倒し、時代を変える、その一歩を踏み出したのだ。
だが――
「……終わった、のか?」
ネフェリスが呟く。
「いや。始まったんだよ、“俺たちの国”がな」
蓮が微笑む。
すると、空の向こう、星の果てより、何かが呼応するように響いた。
――……次元境界、揺らぎ検出。
――識別信号:未確認。
――異世界干渉度、上昇中。
蓮の目が、一瞬だけ見開かれた。
「……なんだ、今のは……?」
イリスが、遥か天を見上げる。
「違う。これで終わりじゃない。あれは――“外”だ。私たちの知らない世界が、干渉を始めている」
次への前兆が、音もなく始まりを告げていた――。
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