第194話 神代の果てに揺籃は鳴る
いつもお読みいただきまして、ありがとうございます。
静まり返った星の地平に、誰かの鼓動が重なる。
それは、まだ生まれぬ希望の胎動。
過去も未来も収束し、因果の終着点から新たなる螺旋がほどけるその時、蓮たちは次の一歩を選ぼうとしていた。
「……この世界の“骨格”が、再構築されている」
ミストの目が、赤く輝いた。
情報の流れを読み取り、過去から続く分岐の揺れ動きを視るその眼差しは、今まさに「世界のゆりかご」が生まれつつあることを示していた。
「これは……神々がかつて拒み、封じた“創造の残響”……!」
星霊の神譜の最奥に刻まれていた、最終構築式。
それがいま、蓮の胸にある星命の核〈スターノード〉を媒介に、物質世界へ顕現しようとしていた。
だが――その道を阻むものもあった。
「“あの方”の命により、君たちにはここで終わってもらう」
そう言って現れたのは、かつて《蒼穹魔法院》で神話級魔導書を管理していた禁書管理官。
その姿は、かつての理知的なものではない。全身に神因子の侵蝕を受けた、半神半機のような異形に変貌していた。
「終焉の管理者〈ワールド・エディター〉は倒された。
だが、“次なる神”が生まれることは、旧秩序が許さない」
「……旧秩序の残滓が、まだ残ってたか」
リーナが剣を構え、イリスがその背に展開翼を展開させる。
蓮の無限アイテムボックスが閃き、彼は一振りの銀の短剣を取り出す。
「これは……エルグランシア遺跡で手に入れた“刻封の刃”」
それは、時間の一瞬を封じ、未来の干渉を一度だけ無効化するという特殊なアイテム。
蓮はこの瞬間まで温存していたのだ。
「この因果の狭間で使うには、もってこいの切り札だな」
蓮が刃を構えた瞬間、オルディナは複数の空間断層を同時展開。
十を超える“擬似世界”の写し身を生み出し、その全てから干渉波を放った。
「これは……多重世界同期攻撃……!」
「だが、逆に言えば一撃にすべてを賭ければ、全部まとめて断ち切れるってことだ!」
シャムの叫びと共に、ネフェリスの詠唱が走る。
「願わくば――魂の歌よ、此処に光の道を!」
銀の旋律が仲間たちの心を貫き、マリルとカイエンの支援が重なる。
「蓮!」
「――行け!」
蓮は“刻封の刃”を全力で振り抜いた。
瞬間、時空が逆巻く。
過去も未来も砕かれ、存在そのものが一時的に停止される。
その狭間を突き抜け、蓮はオルディナの元へと跳躍する。
「終わりじゃない。これは、“次の神話”への通過儀礼だ!」
斬撃が放たれ、時空を切り裂いた。
オルディナの身体が崩れ、彼女は最後に――微笑んだ。
「……君たちが、“その先”へ行くなら……せめて、祈ろう」
崩壊と共に、残された神因子が光へと変わり、蓮のスターノードへと収束した。
その直後、星霊神殿の構造が変化した。
「これは……新しい、世界構築の土台?」
ミストが震える声で言った。
「違う。これは……世界を“織り直すため”の原初の機構。つまり――《揺籃〈クレイドル〉》!」
それは、かつて神々が創世に用いた“神代の最終機構”。
この場所が、その中枢であることを意味していた。
「私たちが“創る”ことを選んだその意味が……ここで、試される」
イリスの瞳が静かに輝いた。
蓮たちは、己の意思で選ばなければならない。
神の力を引き継ぎ、世界の骨格を創り変えるか――それとも、誰にも縛られない“新たなる自由”を築くか。
その選択こそが、次の物語を生む。
そして、彼らは――選んだ。
「未来は、俺たちが創る。誰の代弁でもない、“俺たち自身”の物語として」
光が、彼らの周囲を包み込んでいった。
新たな螺旋が、静かに始動する。
ブックマーク・評価・いいね、出来れば感想とレビューをお願いします!
モチベーション向上のため、よろしくお願いします!!
なお、第2作目の作品『定年異世界転生 ~家電の知識で魔法文明をアップデート!~』もよろしくお願いします。




