第191話 継承されし暁印
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星暦952年、第四月。
戦いの後、浮遊大陸は一時の静寂に包まれていた。
だがそれは嵐の前の静けさに過ぎないことを、蓮たちは知っていた。
「虚神の脅威が去った……でも、これは“始まり”だ」
蓮がそう語ったのは、神殿の廃墟を見下ろす高台だった。
そこには、仲間たち――イリス、リーナ、シャム、ミスト、ネフェリス、ノア、カイエン、マリルが揃っていた。
終極因果交点〈カタストロフィ・シンギュラリティ〉での戦いを経て、彼らの間には深い絆が芽生えていた。
だが同時に、それぞれの胸に、次なる試練への覚悟も宿っていた。
「この世界の“空席”を、どう埋めるか。そこが一番の問題ね」
リーナが呟く。
「神なき世界……ではなく、新たな意思を中心に据える世界。それを、誰が導くのか」
ネフェリスが静かに目を閉じる。
「神話が終わり、人の物語が始まる。その最初の一歩が、いちばん重いのです」
そのとき、蓮の無限アイテムボックスがふと光を放った。
彼が意識を向けると、中から一冊の古びた書物が浮かび上がる。
「これは……」
書の名は《暁印録〈ディヴァイン・ログ〉》。
かつて建国神話の時代に記されたとされる、次代の統治者への継承書。
しかし、現代ではその存在すら忘れられた“神話の後継指令”である。
「まさか……この中に、次の“意思”の在処が?」
イリスが書を手に取り、読み進めると、封印されていた映像記録が浮かび上がった。
「記録開始……我は、かつて神々に仕えし最後の神官。星霊神レグリオスの継承者、ディアス・オルディナ」
かつての神殿管理者であり、神代と人代の橋渡し役。
彼が語ったのは、神々が去った後の“空白”を埋めるために残した意思――すなわち、“黎明の契約”であった。
「選ばれし者に、我は“暁印”を託す。その印は、新たな統治と創世を担う者の証となる」
その瞬間、書物から八つの光が放たれ、それぞれの仲間に印が刻まれる。
蓮、イリス、リーナ、シャム、ミスト、ネフェリス、ノア、カイエン、マリル――すべての者に、それぞれ異なる紋章が刻印された。
「これは……運命を超えて、今の私たちに託されたものだ」
蓮が呟く。
紋章は、天の八星座を象徴していた。
それぞれが、違う性質と役割を持ち、この世界を新たに構築していく要素を内包していた。
「つまり私たちは、この“新しい世界”の設計図になる……そういうことか」
カイエンが言うと、マリルがくるりと回って楽しげに笑った。
「つまり! 好きなように世界作っちゃっていいってこと!? だったら、空飛ぶお城にお菓子の雨!」
「さすがにバランス崩れるわよ、それ」
リーナがツッコミを入れる。
だがその冗談を包む空気には、確かな希望があった。
その夜。
蓮は再び無限アイテムボックスを開き、《星命の核〈スターノード〉》を取り出した。
神殿の戦いで共鳴し、再生したこの核は、もはや“神”ではなく、“意思”の媒体となっていた。
「星々の記憶が、俺たちの中にある。なら、次はそれを未来に繋げていく番だ」
静かな誓いと共に、蓮は《スターノード》を虚空に掲げた。
それは小さく光を放ち、再び彼の体内へと収束していく。
――新しい“創世”の鍵を持つ者として。
そのとき、ミストが前方を指差した。
「……あれを」
空の彼方、銀の裂け目から一筋の光が地表へ向かって落ちていく。
「これは……新たな星の子?」
着地地点は、遥か南方――封印されし砂海の大陸〈アム=エル=サフ〉。
古の叡智と呪いが交錯する、その未踏の地。
「行こう」蓮が言った。
「次の答えは、あそこにある」
仲間たちはそれぞれ頷き、新たな旅支度を始める。
無限アイテムボックスからは、蓮が用意した移動艇〈ヘリオス・ランナー〉が展開された。
空を翔け、時間を超える高速艇。
それは、彼らの新たな“時代の船”だった。
夜明けの空を貫くように、光の線が広がる。
新たな神話が、またひとつ芽吹こうとしていた――。
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