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第190話  天衝の黎明

いつもお読みいただきまして、ありがとうございます。

──空が、裂けた。


澄み渡る黎明の空に、巨大な赤い裂け目が出現したのは、再構成の儀式が終わってから半刻と経たぬ頃だった。


その裂け目は、まるで夜と昼の境界がひとつの世界として噛み合わなくなったように、音もなく軋みながら広がっていく。


「これが……因果の修復による副作用、なのか?」


蓮が空を見上げながらつぶやく。


「いえ、これは……“向こう”からの干渉です」


イリスの目が光る。古代竜としての直感が、目に見えぬ敵意の流れを察知していた。


「時空の深奥……再構成された因果のその先に、何かが残っていたのね」


リーナも剣の柄に手を添え、警戒態勢を取る。


裂け目から漂う気配は、虚神〈アバーソン〉すら凌駕する強大な“存在性”だった。


「……まさか、また別の虚神?」


ミストが焦りと共に確認するも、イリスは静かに首を横に振る。


「いえ、これは“存在”ではない。もっと……根源的な、“世界そのものの拒絶反応”です」


シャムが顔をしかめた。


「世界が、俺たちを“異物”と認識して……排除しようとしてるのか」


蓮たちは、星詠の神殿で神々の記憶を継ぎ、終焉の管理者を否定し、新たな因果を受け入れた。


だが、その選択は“世界の再定義”に他ならず、再定義された世界において蓮たちの存在が“本来の歴史にない例外”となっていた。


裂け目がさらに拡がる。


その奥から現れたのは、白と黒の相反する光を纏う影──名もなき“均衡の守人”だった。


「バランサー……か」


ノアがつぶやく。


「終焉も創世も、過ぎれば均衡を崩す。この存在は、神々ですら制御できぬ“中庸”の体現者。誕生と同時にすべてをゼロにする、究極の調停装置だ」


蓮が眉をひそめる。


「じゃあ、こいつが動き出したってことは……」


「はい。世界が、“創りすぎた”と判断したのです」


イリスが頷く。


再構成の儀式は成功し、世界は新たな姿を得た。


だが同時に、“存在するべきではなかった可能性”すらも取り込んでしまった。


それを是正するために現れたのが、この“バランサー”。


「私たちは、創っただけじゃなく、壊さなければならないのか……」


リーナのつぶやきに、蓮は静かに首を振る。


「違う。“壊す”んじゃない。“選ぶ”んだ」


そして彼は、無限アイテムボックスから一振りの剣を取り出す。


「……それ、まさか……」


カイエンが目を見張る。


「神剣〈アエテル・リブレ〉。星詠の神殿で得た、創世と終焉、両方の力を併せ持つ武器」


蓮がその刃を構えると、剣身が銀と金の光を交錯させながら唸るように輝いた。


「こいつで、“選ぶべき世界”を示してやる」


影が動く。


バランサーの持つ双剣が音もなく振り下ろされると、空間が断絶し、因果そのものが切り裂かれる。


「来るぞ、全員──構えろ!」


蓮の声に合わせて、全員が動いた。


ネフェリスの歌が時空を結び、マリルの魔術が空間を封じ、カイエンの因果構成が味方全員の軌道を最適化する。


シャムとリーナが前衛を務め、ミストとノアが解析と支援射撃を行う。


そして蓮が、その中心で神剣を掲げた。


「──これが、俺たちの“世界”だあああっ!!」


彼の叫びと共に神剣が放たれる。


それはあらゆる過去と未来、虚構と現実を統べる因果の裁定。


バランサーの刃が交差し、時空がねじれる。


──だが、蓮の刃が貫いたのは“選択の余地”だった。


白と黒の光が混ざり、やがてその中央に、新たな“灰色の核”が現れる。


「……これは?」


リーナが目を見張る。


「中庸でもなく、創世でも終焉でもない。蓮、お前は“融合”させたのか」


イリスが驚愕の表情を浮かべる。


「……可能性を、否定しないために」


蓮は静かに言った。


「これは、すべてを“選べる”世界だ。だからこそ、俺たちはここにいる」


バランサーが光の中に溶けていく。


否定も肯定もなく。


ただそこに在るという静けさの中で。


空の裂け目が閉じる。


夜と昼が、再び接続された。


だがそれは、同じ世界ではない。


新たな基盤、新たな選択、新たな始まりを内包する“第三の黎明”だった。


「……これが、俺たちの答えだ」


蓮がそう呟いたとき、空の彼方で、まったく別の因果震が発生していた。


それは、すべての終わりではなく、まだ見ぬ“次の脅威”の胎動だった。


「さて……次は、何が来る?」


イリスが微笑みながら、空を見上げた。


──夜明けは、終わらない。

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