第189話 再構成の祭壇
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虚神との最終戦を越え、終極因果交点〈カタストロフィ・シンギュラリティ〉を乗り越えた蓮たちは、新たな世界の構築に向けて歩み始めていた。
だが、それは決して平穏の訪れを意味するものではなかった。
「“空白領域”が急速に拡大しています」
ミストの報告に、蓮は険しい表情で頷いた。
空白領域――虚神が消滅したことで、因果の構造にぽっかりと空いた“記録なき時空の穴”。
存在が存在しない領域。
そこでは、時間も空間も確定しておらず、どんな因果も通用しない。
「まるで……神すら設計しなかった“余白”が暴走してるみたいだな」
リーナの言葉に、ネフェリスが静かに頷く。
「元々、虚神はその空白を“抑えるため”に生まれた存在だったのかもしれない。否定の具現。それゆえに、記録がされなかったのだとしたら……」
「その封じ手を俺たちが討ち破ったことで、因果律の抑止力が働かなくなった、ということか」
蓮の言葉に、一同が黙り込む。
戦いは終わっていなかった。
今度は、理そのものが壊れていく危機だった。
その解決策を求めて、彼らが目指すのは“再構成の祭壇〈レコンフィギュレーション・アルター〉”。
それは、古の神々が世界を創った際に、全ての因果を束ねたとされる中枢装置であり、同時に記録の根源でもあった。
「でも、その場所……“世界の座標軸”そのものじゃないの?」
ノアの問いに、ミストが静かに頷く。
「通常の手段では辿り着けない。物理的な距離ではなく、因果的な“深度”を降りていく必要がある。まさに――時空の核」
旅路は危険を極めた。
因果が乱れる領域では、過去と未来が錯綜し、自らの記憶すら信じられない。
それでも、蓮たちは進んだ。
全てを終わらせ、新たな始まりを刻むために。
「見えてきた……あれが、《レコンフィギュレーション・アルター》」
神域と呼ぶにふさわしいその空間は、幾重にも折り重なった光の柱が螺旋を描き、中央には巨大な浮遊環が回転していた。
中心に浮かぶのは、世界そのものを象徴するかのような六面体の結晶体。
近づくにつれ、仲間たちの身体が次々に変調をきたしていく。
「因果崩壊フィードバックか……! このままでは存在が保てない!」
ミストが悲鳴のように叫ぶ。
その瞬間、蓮は咄嗟にアイテムボックスを展開した。
「イリス! これを使ってくれ!」
蓮が取り出したのは、“神域安定剤”と呼ばれる古代遺物――かつて、最古の神殿で偶然手に入れたものだ。
「よくこんなものを……!」
イリスが素早く安定剤を結界へと注入し、周囲に光の膜が張られる。
存在の輪郭が、少しだけ戻った。
「ありがとう、蓮。あれがなかったら、ここで解体されてた……」
「……無限アイテムボックスの整理は地味だけど、無限の可能性だからな」
蓮が軽口を叩くと、仲間たちは少しだけ笑った。
だが、戦いはここからだった。
《レコンフィギュレーション・アルター》は、意志を持っていた。
いや、“記録の自律防衛機構”が彼らを“異常因果”と判定したのだ。
現れたのは、因果構造体。
巨大な鎧のような姿で、無数の魔術回路が露出している。
「……来るぞ!」
戦闘が始まった。
だが、これまでの戦いと違い、“現実の干渉”ができない。
ここでは物理法則が意味を持たず、“記録”と“存在証明”が戦闘力だった。
「こんな戦い、前代未聞だ……!」
シャムの言葉に、ミストが答える。
「ならば、私たちの存在意義を記録に刻むしかない!」
リーナが剣を掲げ、詠唱を始める。
「我が名は記録に抗う剣なり。理の帳に、意志を刻まん!」
剣が光り輝き、蓮の手元へ導かれる。
「――行くぞ!」
蓮は剣を振るう。
それは物理的な斬撃ではない。
“記録の書き換え”だった。
ガーディアンの構造式が書き換えられ、その存在が一瞬崩れかける。
だが、それでも抗うように反撃が飛ぶ。
その度に仲間が傷つき、心が削られていく。
「負けるな……! ここで終わったら、あの未来はもう来ない……!」
蓮の声に応え、イリスが再び星命融合式を展開。
ネフェリスの歌声が空間のノイズを消し、カイエンとマリルが因果加速結界を張る。
ノアの照準が定まり、ミストが書き換え式の弱点を暴露する。
「今だ、蓮!」
蓮が放った斬撃が、記録の核を貫いた――!
ガーディアンが砕け、光の欠片となって消えていく。
静寂が戻る。
中央の六面体が音もなく回転を止め、その場に静かに浮かぶ。
それは、あらゆる因果を書き換える“世界の設計図”そのもの。
蓮が一歩踏み出し、それに触れた。
「……これは、創るための力だ。世界を、物語を、未来を――」
誰かの命令ではない。
神々の運命でもない。
ただ、ここにいる仲間と、選び取った未来のために。
「――再構成、開始」
六面体が輝きを放ち、空間全体が再編成を始めた。
“空白”が埋まり、因果が繋がり、世界が修復されていく。
その光景を見ながら、蓮は確信していた。
この先に続く戦いもあるだろう。
だが、もう道は見えている。
それは――自分たちの手で選び取った未来。
新たな神話の時代が、今まさに始まろうとしていた。
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