第187話 星骸機構
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神歴二万一千年、浮遊大陸は再び沈黙の空を裂いた。
時空の安定を取り戻しつつある世界で、蓮たちは“終極因果交点”から帰還し、《星詠の神殿》に拠点を移していた。
そこは、再生された因果の中心――新世界創造の始点であり、彼らの旅路の終着点でもある。
だが。
「《クロノ・パリティ》の残響が、まだ世界を蝕んでいる……」
ミストの声は沈痛だった。
神々が封じた“時間災害”の余波――それが、星骸機構の覚醒を促していた。
それは古の超構造体、かつて“時空の番人”として創られた機械神群体。
その使命は、因果に干渉する存在の排除。
すなわち、“世界の再生者”となった蓮たちは、存在そのものがその標的となるのだ。
「皮肉なもんだね……かつて人類の守護だったものが、今は世界の敵か」
シャムが天を仰いだ。
だが、誰も悲観はしていない。
むしろその先に見据えるものは、さらなる覚悟と、未来への信念だった。
「敵が誰であろうと、俺たちは進む。まだ……世界は完成していない」
蓮の声が響く。
イリス、リーナ、ミスト、シャム――
ネフェリス、ノア、カイエン、マリル――
そして、蓮の無限アイテムボックス〈エターナル・アーカイブ〉が、静かに起動音を放った。
「場所は、時空断層の第七帯域だよ」
ノアの指示のもと、彼らは巨大な機械構造が浮遊する宙域へと向かっていた。
そこには、半壊した星々が回転し、時間が螺旋状にループする奇怪な空間が広がっていた。
「“始まり”と“終わり”が混在してる……?」
リーナが呟く。
「この空間は《ネメシス・コード》の母体、《イデアの殻》に通じる……因果の記録装置そのものだ」
ミストの解説に、イリスが頷いた。
「なら、そこを突破すれば……機構の根源に到達できるわ」
「なら、やるしかない!」
シャムが槍を構えた瞬間、宙域の彼方から、黒鉄の巨兵が現れる。
「――敵性因果波形、確認。粛正を開始する」
無機質な声とともに、巨大な光線が放たれた。
蓮はとっさに、無限アイテムボックスから《因果遮断結界フィールド》を取り出し、展開。
「おおっ、出たなレンくんの便利すぎる宝箱!」
「やっぱり、ボックス万能だな……!」
シャムとマリルが感嘆の声を漏らす。
だが蓮は、少し苦笑しながら言う。
「便利すぎて頼りすぎたくはないけど……今回は特別だ。これがなけりゃ突破は無理だろう」
フィールドが敵の砲撃を防ぎ、その隙にカイエンとミストが連携し、光の杭を撃ち込んだ。
「アーキタイプ、捕捉完了」
「解析開始――出力、最大限界まで上昇!」
光の杭が装甲を貫き、《ネメシス・コード》の1体が爆散する。
だが、すぐさま次の群体が出現。
「まるで、無限に湧いてくるみたいね……!」
「彼らは“再演機構”。因果の繰り返しを模倣してる。倒すほど、過去の戦いが再生される」
ミストが苦々しく口にする。
「つまり、ここで戦えば戦うほど……俺たちの“戦った歴史”が敵の糧になるってわけか」
「だからこそ、蓮のアイテムボックスで“まだ使われていない過去”を引き出すのよ」
イリスの言葉に、蓮が頷いた。
「じゃあ――出てきてくれ、《時間遮断弾・オメガヴェクター》!」
ボックスが再び輝き、禁断の装備が呼び出される。
それは、因果の“起点”を消滅させる特殊弾。
過去にも未来にも属さない“ゼロ時点”からの攻撃だった。
「撃て、ノア!」
「――了解。全力でいくよ」
閃光とともに撃ち放たれた弾は、ネメシスの根幹データそのものに突き刺さり、時間の再演サイクルを断ち切る。
一瞬の静寂。
敵機構が一斉に沈黙する。
「いまのうちに、内部へ!」
イリスの声とともに、蓮たちは《イデアの殻》へと突入した。
殻の内部は、無数の記録結晶が浮かぶ巨大ホール。
そこに浮かぶのは、彼ら自身の過去――選択、後悔、希望、そして戦い。
「これは……俺たちの記憶……?」
「違う。世界が“君たちを記録した”記憶さ」
カイエンが答える。
「この場所は、創造を繰り返す《原初の端末》でもある。“再生者”となった君たちの未来も、記録しようとしている」
「未来を……勝手に記されるのは、ごめんだな」
蓮が、剣を抜いた。
その刃先が記録結晶に触れた瞬間、周囲の空間が一変する。
浮かび上がるのは、蓮が“もしも道を違えていた未来”の断片。
仲間たちを失い、暴走する蓮。
侵略者となった未来。
壊れた世界。
「これは……俺の、可能性……?」
リーナがその隣に立つ。
「だからこそ、選ぼう。私たちの“いま”を」
蓮が剣を振る。
記録の結晶が砕け散り、その後ろに《ネメシス・コード》の中核が現れる。
「因果再演、最終拒絶。世界の意志、拒否されました」
「俺たちは、世界の意志に従うために生きてるんじゃない!」
イリスが叫び、ミストとノアが転送装置を展開。
「《因果収束展開式・ラグナロクリンク》――発動!」
蓮が剣を振り下ろす。
光が全てを包み、《ネメシス・コード》は沈黙の彼方へと消えた。
その夜、蓮たちは《星詠の神殿》に帰還していた。
「ようやく……終わったの?」
「まだ、世界の“始まり”が始まったばかりだよ」
ノアが微笑む。
蓮はそっと、空を見上げた。
星が瞬いていた。
かつては見えなかった光――
無限アイテムボックス〈エターナル・アーカイブ〉の中には、まだ無数の可能性が眠っている。
「行こう。まだ旅は、終わっていない」
蓮の言葉に、全員が頷いた。
星は、まだ語り続ける。
彼らが紡ぐ、未来という神話を――。
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