第186話 時空の残響回廊
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――あの日、誰かが囁いた。
「世界は繰り返す。だが、選び直すことはできる」と。
時の海を超えて、蓮たちはその真意を知ることになる。
煌めく宙に浮かぶ、古代神殿のような回廊。
だが、その柱の間には時空の波紋がゆらぎ、現実の存在すら不安定に揺れていた。
「ここが……《クロノ・パリティ》。時間と因果の“交差点”か」
蓮がつぶやく。
まるで空間そのものが、音の代わりに記憶で響いているかのようだった。
イリスが隣で頷き、光る蒼玉の瞳を巡らせる。
「ここは過去と未来の等価点。だからこそ、“因果の残響”が存在できる。私たちが倒したはずの敵や、既に消えた存在すら、一時的に“ここ”では影として現れるかもしれない」
「まるで……世界が夢を見てるみたいな感じだな」
リーナが苦笑まじりに呟いた。
彼女の剣が光を帯び、揺らぐ影を牽制している。
シャムは辺りに視線を巡らせながら、冷静に言う。
「気を抜くな。ここでの戦闘は、単なる肉体的対峙じゃない。“記憶”が逆流する。戦った意味が、自分の中から崩される可能性がある」
その時だった。
――カツン。
時間の反響が、硬質な音を響かせた。
「ようやく来たか。新しき選択者たちよ」
影から姿を現したのは、かつて“星詠の神殿”で対峙した、神殿守護者の一人。
ただしその姿は既に半ば朽ちかけ、時の波に侵された幻のようだった。
「どういうことだ……? あんたはもう……」
「私は死んだ。それは間違いない。ただ……この回廊に刻まれた“選択の記録”が、私をこの場に招いた。過去を見せるのではない、選ばれなかった“もしも”の亡霊を」
彼の言葉に、ミストが即座に補足する。
「この領域は《クロノ・パリティ》。本来選ばれなかった可能性の“揺らぎ”が、因果の記録と接触して仮想の形を取る……いわば、運命の誤差補正空間」
「つまり……俺たちがここで何を選ぶかで、今後の“因果の安定”が決まるってことか」
蓮が目を細める。
その瞬間――空間が激しく歪んだ。
無数の影が回廊の外周に現れる。
かつて蓮たちが倒してきた敵たち――帝国の魔導兵、反乱の魔獣、さらには虚神の断片までもが、残響として蘇る。
「出るよ!」
リーナの叫びと同時に、全員が戦闘態勢に入った。
シャムが地を蹴り、矛を構え突撃。影の魔獣を一撃で粉砕。
ミストは高位魔術を展開し、時空反応式の爆裂魔法を放つ。
ネフェリスとノアは、後衛として補助詠唱と防壁を展開。
そして――蓮が右手を掲げた。
「……ここで使うか」
無限アイテムボックスが、空間に瞬時の収束を起こし、眩い光を放つ。
彼の掌から現れたのは――“時間律結晶”〈クロノ・フレア・コア〉。
「これ、確かに一度も使いどころがなかったが……この場所なら最適だ!」
蓮が結晶を掲げると、空間がさらにねじれ、時間の回廊全体が膨張する。
「時間制御式“限定記録反転”――《タイム・リセット・リベリオン》!!」
その瞬間、彼らの周囲に存在していた“影の軍勢”が全て逆流し、一度消滅する。
だが、それは単なる削除ではない。
再び現れた敵たちは、蓮たちの“過去の選択”に基づく別の形となって現れた。
「くそっ、まだ来るかよ……!」
「でも、それってつまり……“試されてる”ってことだよね?」
マリルが笑う。
その瞳には怖れはない。
「うん。だって、ここで選びなおせるなら、きっともっと良い未来だってあるかもしれない!」
カイエンもまた、静かに構える。
イリスが周囲の解析を終え、声を上げる。
「この空間、残響の発生源を特定した! 回廊の中心核、“時間律の紋章柱”だ!」
「よし、なら突っ込むぞ!」
蓮たちは残響の軍勢を突破しながら、回廊の中枢へと向かって突き進む。
リーナの剣が閃き、シャムの矛が空を割る。
ネフェリスの歌が全員の心をつなぎ、ノアの構築した防壁が仲間たちを守る。
そして蓮が――中枢の“時間律の紋章柱”へと手を伸ばした。
その時。
「選べ――“過去を正すか”、それとも“未来を創るか”」
空間全体に響いたのは、因果律そのものの声。
誰のものでもない、しかし確かにこの空間の“根幹”である存在の声だった。
「どちらかしか、選べないってことか……」
リーナが低くつぶやく。
「いや、違う」
蓮が首を振る。
「俺たちはここまで来た。“どちらか”じゃなく、“どちらも”掴むために戦ってきたんだろ?」
彼の掌に再び、星命の核〈スターノード〉が浮かぶ。
そこに宿るのは、数多の選択と、仲間たちの祈り。
「だからこそ、俺たちは――選ぶんじゃない。“創る”んだ!」
光が爆発する。
その輝きは、回廊を構成する時間の波を貫き、中心の紋章柱へと突き刺さる。
すると――すべての残響が静かに消えていった。
静寂。
それは敗北でも勝利でもない。
“選び直された世界”の胎動だった。
気づけば、蓮たちは元の浮遊大陸の上空にいた。
「……終わった?」
リーナがつぶやく。
イリスが頷き、空を見上げた。
「いいえ。むしろ、これから始まるの。私たちが創る、新しい“時間の物語”が」
蓮の無限アイテムボックスの中では、使い切られなかったいくつもの可能性が、まだ眠っている。
それらが、次なる世界の扉を開く鍵となるのだろう。
「さあ、行こう。俺たちの未来は、まだ終わっちゃいない」
仲間たちは笑顔で頷き、新たな大地へと歩き出した。
彼らの前に、いま一度“新世界創造”の旅が広がろうとしていた――。
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