第185話 境界なき宝庫
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――空が泣いていた。
厳密には、空ではない。
“空間そのもの”が軋み、涙のように閃光の雨を降らせているのだ。
そこは、今まさに因果の「余波」が集中して収束している特異領域。
終極因果交点での激闘から数日。
新たな大地に移行したばかりの世界は、徐々にだが再生の兆しを見せていた。
だが、それは蓮たちの旅路が終わったことを意味しない。
「この座標……かつて帝国が建造していた“因果超越兵器”の残骸が集まっている場所だ」
ミストが転移陣から出るなり、解析デバイスを空間に翳した。
浮かび上がるのは無数の残骸――それは、技術と魔術、神話と情報が交錯した“忘れられた実験場”だった。
「まだこんなもんが残ってたのかよ。ほんっと、しぶといな」
シャムが槍を肩にかけつつ警戒を強める。
蓮たちの目的は、この特異領域の中心にある“因果断絶炉心”を無力化すること。
そのためには、この地の残骸を突破しなければならない。
その時――
「うぐぅ……あれ、どうすんの……?」
マリルが遠方を指差した。
そこには、空間をねじ曲げるほどの巨大な兵器――否、兵器と呼ぶにはあまりに“未定義”な存在が浮かんでいた。
「――“アーク・オーバーストレージ”?!」
カイエンがその姿を見て、即座に名前を叫んだ。
「旧帝国が因果そのものを保存・再現するために設計していた、未完成の超構造体よ……! たしか実験失敗で沈黙してたはず……!」
「再起動された可能性があるわ。しかも、今の因果の混乱に乗じて……!」
イリスが言い終えるより早く、虚空に魔力の津波が走る。
残骸だったはずの兵器たちが、次々に起動し、蓮たちの周囲を取り囲んでいく。
「――囲まれた!」
ノアが即座に分析を開始するも、数が多すぎる。
さらに、兵器群には自己修復機構が搭載されているようで、たとえ破壊しても無限に再生してくる。
「これは……普通に戦ってたらキリがないぞ……!」
蓮が歯を食いしばる――だが、その時だった。
彼の脳裏に、ふとよぎった記憶。
かつて、神殿で手にした《創世の因子》、そしてその因子が共鳴した時に、蓮の内なる“可能性”が目覚めた。
「そうだ、俺には……!」
蓮は静かに目を閉じ、自身の右手に意識を集中させる。
《無限アイテムボックス》。
それは、彼の魂に刻まれた“境界なき宝庫”。
あらゆる時空、あらゆる記憶、あらゆる因果の中から“必要なもの”を召喚する、世界に一つの収蔵庫である。
「出てこい――《レゾナンス・フォージギア》!」
閃光とともに、彼の手に現れたのはかつて封印されたはずの古代兵装――虚神との戦いで一時使用不能となったはずの“共鳴式錬装機構”だった。
「え、これ、まだ使えるの!?」
とリーナが驚くが、蓮は頷く。
「いや、正確には……《無限アイテムボックス》が“再構成”してくれた。俺たちの記憶、経験、戦い……それ全部を“武器”として再生してくれたんだ」
そして――
「全員、俺に続け! 今からここを突破する!」
その声に、仲間たちが一斉に動いた。
戦闘は熾烈を極めた。
蓮は《無限アイテムボックス》を駆使し、状況に応じて様々な道具・武具・補助魔具を即座に展開した。
・《エターナル・ブースター》でシャムの機動力を強化。
・《記憶の灯火》でネフェリスの歌声を広範囲バフに拡張。
・《逆転の羅針盤》でミストの解析精度を飛躍的に向上。
・《星詠の残響環》でリーナの剣撃に天文の因果を宿らせる。
そして、終盤には――
「これで止めだ……!」
蓮が取り出したのは、《アーク・ブレイカー》――超巨大な因果干渉杭。
かつて帝国の禁忌として封印されたものを、蓮の意志が再構成した一撃必殺の特攻兵器。
それを構え、全力で跳躍。兵器の中心、再起動しかけていた“アーク・オーバーストレージ”の炉心めがけて、直撃させた――
衝撃と共に因果の構造が崩壊し、機構は崩れ落ちていく。
……静寂が戻った。
周囲はもはや、ただの廃墟だった。
動くものはなく、ただ風だけが吹いている。
「やった……のか……」
シャムが膝をつく。
皆、限界に近かった。だが、それでも――勝ったのだ。
「さすが、無限アイテムボックス……!」
と、ノアが蓮に目を向けた。
「まさか、あれがここまでの力を持ってたとはね……」
マリルが半ば呆れたように笑う。
「いや……きっと、あれは“俺ひとりの力”じゃない」
蓮は、そっとその右手を見下ろす。
「これは、“みんなと過ごした記憶”が具現化したものだ。だから、無限なんかじゃない。俺たちが生きて、選んで、ここに来た証なんだ」
その言葉に、仲間たちは深く頷いた。
そして――
「よし、帰るか。次の目的地は“時空の残響回廊”だったな」
カイエンの言葉に、蓮が笑う。
「また大変そうだな。でも……楽しみでもある」
「うん! 新しい伝説を刻みに行こうよ!」
リーナとイリスがそれに続き、歩き出す。
蓮はふと、再び《無限アイテムボックス》を見つめた。
「……ありがとう。俺たちを、ここまで導いてくれて」
誰に言うでもなく呟いたその言葉は、空へと溶けていった。
そして、彼らの冒険は続いていく――まだ見ぬ明日へと。
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