第184話 楽園喪失回帰
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星詠の神殿から連なる神話構造が崩壊したことにより、世界は緩やかに「再構成」の段階へと突入していた。
だが、それは決して穏やかな過程ではなかった。
新たなる神話の胎動に呼応するように、幾多の時空から“存在の残響”が干渉してくる。
虚神の崩壊により穴が開いた因果の裂け目――そのひとつが、かつての《原初世界エデン》の断片をこの地に投影し始めていた。
空に浮かぶのは、巨木〈エデン・スパイン〉の幻影。
かつて万象が生まれ、滅び、再び循環した理想郷の中心核。
蓮たちが目にしたのは、今や崩壊し、数多の矛盾と自己否定に引き裂かれた“原初神話の亡骸”だった。
「……これが、最初の楽園……?」
リーナの言葉には、畏敬とも畏怖ともつかない感情がこもっていた。
「けど、それはもう“終わった世界”だ。俺たちは、これを再構築しなきゃならない」
蓮が応える。
その瞳には、創世の炎が揺れていた。
一行は、“楽園”へと足を踏み入れる。
それは、単なる幻影でも記録でもない。
蓮たちの存在そのものが、過去の神話に巻き込まれるような、因果的な共鳴であった。
「待ってください……これはただの再現ではないわ。楽園自身が、“選別”を始めてる……!」
イリスが言った瞬間、空間が反転する。
一行は気づけば、分断された個別の空間へと隔離されていた。
〈蓮の試練〉
蓮が目を開けた先は、どこか見覚えのある王都の広場だった。
しかしそこには、誰もいない。
いや、ただひとり――蓮自身と、瓜二つの“存在”が立っていた。
「お前は……」
「俺は、お前だ。“建国の夢”を捨てきれなかった、お前の後悔の残滓だ」
黒衣の蓮は、静かに剣を抜く。
「選べ。理想を掲げたまま仲間を巻き込み、果てに滅ぶか。あるいは孤独でも、確実な平和を築くか」
「……そんなもの、選ぶ必要なんてない」
蓮は前に出た。迷いのない一歩だった。
「俺たちの物語は、矛盾の中でこそ輝く。理想を掲げることが、どんなに愚かでも――それを一緒に進んでくれる仲間がいる限り、俺は進む!」
剣と剣がぶつかり合う。
それは外から見れば、ただの“自己受容”の儀式にすぎないかもしれない。
だが、この戦いを経てこそ、蓮の“創世の因子”は真に覚醒するのだった。
〈イリスの試練〉
一面の白銀。
氷に覆われた時空の狭間で、イリスは自身の原罪と向き合っていた。
かつて、世界を滅ぼしかけた古代竜の記憶。
「また会ったわね、私」
氷の中から現れたのは、かつてのイリス自身――殺戮の象徴として神々から封印された時代の彼女だった。
「“赦し”なんて、あなたには似合わない」
「……いいえ。似合うかどうかは、私が決める」
イリスは静かに言い放った。
「私は蓮たちと出会った。彼らは、私が“何者だったか”じゃなく、“今、何を選ぶか”で見てくれる」
氷の幻影が砕ける。
その瞬間、イリスの背に顕れたのは、天の双翼。
かつて神を砕いた“竜王”の力と、今の彼女の意志が融合した姿だった。
〈シャムの試練〉
シャムの空間は、何世代も前の、かつての故郷――滅びた王国の玉座の間だった。
そこには、兄であり主君であった男が立っている。
「なぜ、私を置いて行ったのか?」
「俺には……守りたかったものがあった。けれど、結果として、お前を救えなかった」
かつての王の声は、怒りではなく、悲しみに満ちていた。
シャムは膝をついた。
「だから、俺はもう一度“忠義”を問いたい。主のために戦うのではなく、自らが信じる正義のために、剣を振るう」
幻影の王は微笑む。
「ならば――進め。王を超えろ、シャム」
その瞬間、シャムの鎧は砕け、全く新しい姿の“因果の騎士”として進化する。
そして、全員が再びひとつの空間に集結する。
エデンの幻影は静かに語りかけてきた。
「お前たちは、“楽園を棄てた者たち”。それでもなお、新たな神話を望むのか?」
蓮は前に出て、剣を突き立てる。
「望むとも。俺たちは、与えられた理想じゃなく、自分たちで選び取る理想を信じてる!」
エデンが震え、崩壊し、やがて光の粒となって消えていく。
その中で、何かが彼らの元へと降り立った。
それは“神代より失われていたもの”――次なる戦いを予感させる、新たな神核の片鱗だった。
「これは……?」
イリスが手に取るそれは、まだ“名前を持たぬ運命”。
だが確かに、これからの世界を定める鍵となる存在だった。
「さあ、帰ろう。俺たちの“創るべき未来”が待ってる」
蓮の言葉に、全員が頷く。
かくして、楽園喪失の回帰と再解釈は完了した。
だが、これはほんの始まりに過ぎなかった。
次なる神話の舞台――それは、未だ誰の記憶にも存在しない“虚構の大地”へと繋がっていたのだった。
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